抄録
【目的】 現代社会において、人間関係の希薄化や人とかかわる力の衰退が問題視され、子どもの世界においても、人間関係に悩みや不安をかかえる子どもが少なくない。しかし、変化の激しいこれからの社会を生きる子どもたちにとって、問題を抱え込むのではなく、他者と共に考え協力する、すなわち、人とかかわりながら問題の解を探っていく力の必要性は益々高まっているといえる。本研究では、「人とかかわる力」が「市民性」「精神的自立」「自尊感情」等と関連があることを明らかにした先行研究(吉村・荒井、2011)を踏まえ、他者との協働探究や問題解決を重視した高校家庭の授業を開発、実践し、その教育的効果を分析することを目的とする。
【方法】 福井県立高校(職業系)の家庭総合を履修する1年次生を対象に、「これからの生き方:仕事・結婚・子育てを考える」を題材とした授業を計画、実施した。約半数の生徒が就職志望であることから、将来を見通しながら今後出会う問題について探究的に調べ、考える学習を設計した。授業時間は試験を含め13時間、実施時期は2011年11月~12月である。授業の構成は以下の4部構成とした:第1次「自分を見つめる」、第2次「個人探究」、第3次「協働探究(1)」(テーマ設定、現状把握)、第4次「協働探究(2)」(問題追究・解決)。学習には市民性や自尊感情、自立心を育む視点が組み込まれるよう配慮し、さらに授業後の「試験」において、女性の働き方をテーマに社会的視点からの問題解決について考えさせた。
【結果及び考察】
1.学習のプロセス
個人探究、協働探究で生徒が取り上げたテーマは、大きく分けて「若者の自立」「就職・仕事」「結婚・離婚」「家事・子育て」であった。まず、個人探究で今後の人生を見つめて気になることを調べ、それをもとにグループごとの協働探究では、収集した情報や聞き取りをもとに問題を特定し、解決策を探っていった。将来における不安はどの生徒にもあり、切実感をもって取り組む様子が観察された。
2.「人とかかわる力」の変化
事前・事後アンケートにより、「人とかかわる力」がどう変わるかをみた。人とかかわる価値を問う4項目(自己発見・目標達成・やりがい・知識習得)及び人とかかわる力・意欲をみる4項目(他者理解・意思伝達・他者受容・合意形成)の全ての項目の段階評価において、より肯定的積極的な回答の増加が見られた。特に、合意形成ができるかを問う項目で「そう思う」と答えた割合が40%から62.2%に上昇した。生徒は本実践を通して、人とかかわることの手ごたえを実感し、合意形成の力や意欲が高まったことが推察される。
3.協働探究と思考の深まりの関係
学習過程における生徒の思考について分析するため、個人探究後と協働探究後にアンケートを行った。思考が深められたかどうかを4項目(論理的思考・多面的思考・思慮深い思考・認知的思考)で尋ねた結果、協働探究後に、論理的・多面的思考が深まったと実感する生徒の割合が高いことが認められた。
4.授業に対する生徒の捉え方
授業後の生徒の感想をカテゴリー化すると、(1)人とかかわることによる発見・思考の深まり、(2)将来直面する問題や生き方への主体的認識、(3)不安の解消、(4)互いを受け入れ合うことの喜び、(5)新しい試み(学習)への驚きと意欲、の5つに大別できた。大半の生徒が(1)について触れており、そのことが(2)の認識を高め、(3)に繋がっていると考えられる。(4)からは、他者受容の体験が自尊感情に繋がる様子が認められ、(5)からは、調べ学習の経験はあっても、問題解決的な学習経験は少ないことが窺える。
以上から、市民性・精神的自立・自尊感情を育む視点を組み込んだ協働的、探究的な学習は、生徒に人とかかわることの価値を実感させ、「人とかかわる力」を育む上で有効であることが示唆された。