日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
第56回大会・2013例会
セッションID: A3-7
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56回大会:口頭発表
男女共同参画社会をめざす意識改革のための家庭科授業開発
女子高等学校での取り組みから
*千葉  眞智子堀内 かおる
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抄録

【研究目的】
 男女共同参画社会の実現と言われながらも、授業で接している女子高校2年生のジェンダー意識は大変低いと感じている。「玉の輿にのる」「夫に働かせ、楽に専業主婦をする」というように、現実を軽く考える生徒が少なからずいる。また、結婚を女性の幸せの終着点とみなしている生徒が多いようにも感じられる。ひとりの自立した女性として、どのように生きていくかという自覚が、間もなく社会に出ていこうとする生徒の中にあまり育っていないことを痛感している。そこで、一人ひとりが自己実現を可能にし、自分らしい生き方をするために男女共同参画社会の実現が急務であることを生徒に喚起する授業開発を試みた。授業後、生徒のジェンダー意識の変容を分析し、男女共同参画社会を実現させるために家庭科教育の果たす役割について検討することを本研究の目的とする。
【研究方法】
1対象者:横浜市内 私立の女子高校2年生 160名
2調査期間:2012年11月~2013年2月
3授業実践の実施とその分析・考察:男女共同参画社会をめざす意識改革を目的とした授業(6時間分)を実施した。授業後に書いた生徒のふりかえりの記述をもとに、生徒の意識変容と授業の成果を考察する。
【結果と考察】 
生徒のふりかえりの記述を分析してみると大きく4つに分類できた。
(1)性別役割分業意識に賛成
 「家事は基本的に自分でやりたい」「日本の文化であり、抵抗を感じない」という意見に代表されるように、賛成、あるいは抵抗を感じないとする生徒は、反対であると考える生徒より多かった。このタイプは、性別役割分業意に抵抗を感じない、あるいは仕方がないとあきらめている者と平等であるよりむしろ今のままの方が楽であると考える者に大別できた。
(2)性別役割分業意識に反対
 性別役割分業に反対とする生徒たちは「女性も固定観念にとらわれず、人間らしく生きたい」「この立場に甘んじている女性たちがいることを腹だたしく思う」というような意見を書いているが、(1)の意見の生徒に比べて明らかに少数だった。反対意見の生徒たちを見てみると、部活動の部長や生徒会の執行部員など、学校内において責任のある役割についている者が多い。また、母親が有職者である者も多い。
(3)性別役割分業意識に対する認識が変わった
 一連の授業を受けて、今までの自分の常識や考え方に変化があったとする生徒たちは、「将来は専業主婦になるのが当たり前と思っていたが、そうでない世界があることを知って、そちらの方がいいと思った」「性別役割分業意識は別に悪いことではないと思っていたが、なくすことが男女共に有益であると知って、考えが変わった」というような記述をしている。授業を通して今までの自分の常識が変化している。
(4)男女共同参画社会の意義を知った 
 生徒のふりかえりの中で一番多く書かれていたのが、今まで知らなかったジェンダー観を知ったという生徒たちである。「女性の社会進出が男性の労働を変える」「男女の格差をなくす対策を推し進めるのは私たちの世代だ」「女性の平等を求めることは、女性の責任を重くすることでもある」というように、意見が変わったとはいかなくとも、授業が生徒の認識を刺激したことがわかる。この層は授業を受けることで様々な情報を得て、男女の働き方、生き方の多様性を知った。そしてその刺激が今後の自らの生き方を考えるうえで一つの礎になったといえよう。
【結論】
 今回の授業ではグループでのワークショップを多く取り入れ、グループで話し合われたことをクラス全体で共有する機会も設けた。そのことにより、生徒の潜在的なジェンダー意識に揺さぶりをかけ、今までより広い視野で物事を考えられるようになったと思われる。今回の授業開発により、生徒の意識に変容があったことが明らかであった。 今後は生徒がさらにジェンダーに関して広い視野を持ち、生徒自身が意思決定していく力を養うためのさらなる授業開発を追究したい。 

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