抄録
〔目 的〕
教育実習が学生にもたらす影響は大きく,教育実習において学生が教師として授業を実践する力量を形成していくことは明らかである。しかし現在、札幌校では学生が小学校での教育実習中に「家庭科」の授業実践をすることは非常に少ない状況にある。すべての学年に位置づけられている教科とは異なり,「家庭科」は5,6年生で履修する教科であるため,その学年を担当しなければ授業実践をすることはない。しかし,5,6年生を担当したとしても,学生が積極的に「家庭科」の授業実践を望まないためか,研究授業で「家庭科」が実践されることはほとんどない。学生に「家庭科」の授業を実践しないない理由を尋ねると,「家庭科の授業をどのように実践したらよいかわからない」という返答があり,大学での指導のあり方を見直す必要性が求められた。「家庭科」の授業を実践できる力を身につけるためには,現場での優れた授業実践を数多く観察すること。さらに,観察した授業展開を基に,教師の働きかけやそれに対する子どもの学習行動,また子どもの学習活動とそれに対する教師の支援などを分析・考察することができる力を身につけることである。しかし,優れた授業実践を参観する機会を得ることは,大変に難しい。本学では,三橋氏が「小学校算数科教育法」において観察した授業記録の読解を基にした授業研究を行っており,学生たちはこの講義を通して,算数科に必要な授業実践力を身につけられると評価している。 そこで、本研究は、「小学校家庭科教育法」において観察した授業記録の読解を基に授業研究を実施することで、学生たちに「家庭科」の授業を実践する力を育成することができるかどうかを検証することを目的とした。本発表では、授業の観察記録を作成する力について報告する。
〔方 法〕
三橋(1993)の実践例を参考に,「小学校家庭科教育法」(2010年度後期)を受講する学生50名(男子26人、女子24人)を対象とした。2010年10月に札幌市内の小学校教員が研究大会で実施した「くふうしよう!季節に合うくらし」(6年生)を録画し、観察対象の授業とした。学生には(1)録画した授業を観察(視聴)させた。規格用紙を配布し、授業中に生じているすべての行動を時間的な流れに沿って鉛筆等で自由記述する(行動描写法)ように指示した。次に、(2)事前に観察対象の授業を文字で起こした「記述された授業記録」を学生に配布し、(1)で記入できなかった箇所を赤字(黒以外の色)で補足するように指示した。(1)と(2)の作業を通して作成した「授業記録」を基に、学生が記録した教師・学習者の言語・非言語行動(挨拶を除く)の「記録量」とその記録の「正確さ」を行動のカテゴリー(行動目録法)により分析・検討した。
〔結 果〕
観察した授業では、教授・学習行動が教師62件,学習者57件,講師4件,合わせて123件であった。学生が観察して作成した記録用紙に、教授・学習行動が何件記録されているか(記録率)を分析した。教育実習経験のある3,4年生は全123件のうち平均50.1件(40.8%),実習経験のない2年生は平均42.1件(33.3%)であり,実習経験のある学生の方が若干多く記録をしていた。 また,実習経験の有無と,教師,児童,講師の「正確」記述の関係をみたところ,いずれも実習経験のある学生の方が,記述した件数が高いことがわかった。記録件数が最も多かった者は、実習経験者の4年生で72件(58.5%)であるのに対し、最も少なかった者は2年生で13件(10.5%)であった。一方、教師の非言語行動として「板書」や「机間巡視」「DVD視聴」「資料配付」がみられたが、「板書」や「DVD視聴」については、実習経験の有無に関わらず、全体の68%が記述していたものの、「机間巡視」や「資料配付」は全体の40%であり、これらの記述量は経験者の方が多い傾向にあった。
三橋(1993) 観察記録の方法、『教育実習ハンドブック』,57-65,ぎょうせい