抄録
我が国では近年,肥満と糖尿病患者の増加が著しく,深刻な健康問題になっている。男性では10 歳間隔の年齢層で20 歳以上のすべての年齢層で肥満者の割合の大幅な増加が見られている1 )。肥満は動脈硬化の危険因子であり,脂質異常,高血圧,耐糖能異常を合併しやすく,心筋梗塞や脳卒中などの動脈硬化性疾患の基礎的な病因になるため,その増加は我が国の医療全般に多大な影響を及ぼす。また糖尿病は,最新の国民健康・栄養調査の概要によると「糖尿病が強く疑われる人」と「糖尿病の可能性が否定できない人」の総数は約2,100 万人であった。すなわち,肥満や糖尿病は我が国の健康・医療の問題の中で深刻な状況を呈しており,早急に効果的な対策を実施しなければならない問題であることが分かる。
こうした状況の下,平成20 年度から生活習慣病対策の一環として,メタボリック症候群をターゲットとした特定健診・保健指導の制度が始動した。健診でメタボリック症候群あるいは予備群とされた人に対して,保健指導の実施が義務付けられた。しかしながら,メタボリック症候群に対する効果的な保健指導の方法論が確立されていないため,その指導効果も限定的であり,どのような保健指導を実施すれば効果を挙げられるかが最も求められている。 以前より,日本人は,肥満しやすいあるいは糖尿病になりやすい体質を有していることが知られている。この肥満や糖尿病になりやすい体質―遺伝因子が検索できれば,保健指導に対する指導の効果が飛躍的に高まると期待されている。本稿では,生活習慣病ことに動脈硬化関連遺伝因子の解析の現況と,遺伝子検査をもちいた,生活習慣病指導の効果および問題点について述べたい。