総合健診
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総合健診と遺伝子検査
癌遺伝子検査の現状と展望
清水 憲二
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2010 年 37 巻 2 号 p. 253-266

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抄録

 日本人の約2 人に1 人が生涯のうちに何らかの癌に罹患すると言われる現在,癌の予防と早期発見法の確立は焦眉の急である。本稿では,そのための戦略として有望とされる癌の遺伝子検査について,その現状と問題点,将来の展望を概説する。遺伝子診断による癌の罹患率予測で最も信頼性が高いのは,高浸透率の遺伝性腫瘍である。特に,遺伝性乳癌/卵巣癌症候群,Lynch 症候群,甲状腺髄様癌等が既に実用化段階に達しており,世界的な広がりを見せている。しかし,これらの遺伝性腫瘍はそれぞれの癌種全体の中では数%を占めるに過ぎず,しかも限られた家系でのみ適用可能な検査であるため,国民全体の癌予防に対する効果は限定的である。孤発性の癌を含め,癌の分子病態学的な研究から,有効な治療法の選択に遺伝子情報を活用するPharmacogenetics が最近進展し,薬剤の効果や副作用の予測に役立っている。この方面の研究と実用化は今後も急速な全面展開が期待できる。一方,癌全体の9 割を占める孤発性癌の発症確率予測は,現時点では未だ発展途上である。その大きな理由は,孤発性癌の発症が多くの遺伝的要因と環境要因の相互作用に基づくことにあり,それぞれの遺伝的要因の寄与率(浸透率)が小さいことである。それでも,最近の数年間に,前立腺癌,乳癌,肺癌等に関しては,発症危険度に関与する複数の遺伝的多型が明らかになり,個人におけるそれらの重複の程度から,高リスクの個人を特定できるようになってきた。ただし,個人別に多くの癌種の発症確率予測を同時に行う方法はまだ世界的にも完成していない。この試みを実現しつつある我々の最近の研究の一部を紹介し,今後の方向を示唆したい。
 最後に,孤発性癌の遺伝子検査が未成熟な状況で実施されつつあるという世界の動向を報告し,癌の遺伝子検査に対する専門家集団や行政の対応,倫理的,社会的な問題等について,私見を述べる。

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© 2010 一般社団法人 日本総合健診医学会
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