抄録
2010年の日本脂質栄養学会のコレステロールガイドライン(日本脂質栄養学会ガイドライン)の発行を契機に、コレステロール治療の是非をめぐる議論が一時的にかなり沸騰した。マスコミでもとりあげられたので、ご記憶の方も多いと思われる。
このガイドラインの特徴は、日本動脈硬化学会(JAS)の動脈硬化性疾患予防ガイドライン(JASガイドライン)の根拠となっている介入試験の信頼性に疑念を述べ、「JASガイドライン」の内容を否定する一方で、自らは観察研究のみを根拠に因果関係についての結論を導き出し、介入研究による検証をしていないことにある。また、その作成過程が少数の専門家の合意によるものであったため、内容の妥当性を示す客観的なデータがないことも特徴であった。
「真実(真理)を知るのは神のみである。人は真実(真理)を知ることはできない。人が知ることができるのは事実(現象)である。人は事実(現象)という覗き窓を積み重ね、はじめて真実(真理)の一面を眺めることができる。眺めている事実(現象)という二次元でもって、真実(真理)という三次元のすべてをみたと思ってはならない」という教えがある。
その考えにしたがったとき、「日本脂質栄養学会ガイドライン」は、確かに真実の一つの側面を少数例の観察研究からみている一方で、介入研究や基礎実験という別な側面から立体的に眺める努力を怠っているように感じられる。観察研究のみによって因果関係についての証明をなすことはできない。観察研究によってたてられた仮説は介入試験によって立証されるべきであるし、基礎実験によって理論的に裏付けられるべきである。
臨床医は現時点では「日本脂質栄養学会ガイドライン」に流される必要はなく、日本脂質栄養学会には真実を立体的に眺めるべく、介入研究によって自らの仮説を検証していただきたい。