総合健診
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39 巻, 6 号
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特別企画
  • 飯野 靖彦
    2012 年 39 巻 6 号 p. 733-741
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/11/01
    ジャーナル オープンアクセス
     CKD(慢性腎臓病)は10年前に提唱された概念であり、原疾患の如何にかかわらず腎機能異常があると予後不良であることから重要視されてきた。今回日本腎臓学会で『CKD診療ガイド2012』が上梓され、以前のCKD診療ガイド2007、2009と大幅に改訂が行われた。特に、重症度分類はGFRだけでなく、原因(Cause)とアルブミン尿の程度(Albuminuria)を加えたCGA分類となっている。より正確な予後判断ができるようになったが、その利便性に関しては疑問も呈されている。さらなる検討が将来必要であろう。CKDの重要性は、腎不全による透析患者するの増加と心血管疾患による死亡率の上昇である。その両者を防ぐためには、原因疾患の早期治療、腎保護作用のある薬剤投与、血圧管理、蛋白尿の減少、生活習慣の改善、脂質異常の治療、貧血治療、CKD-MBDの管理など多方面からのアプローチと管理が必要である。日本は世界で初めて超高齢化社会に突入する。欧米の真似をしてきた医療界で日本独自の方策を考えなければならない時期になってきた。CKDは欧米の真似の域を出ないが、さらに日本独自のCKD対策を考えなければならない。
大会講演
日本総合健診医学会 第40回大会
  • 中村 丁次
    2012 年 39 巻 6 号 p. 750-758
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/11/01
    ジャーナル オープンアクセス
     食べ物と健康や疾病との関係は、世界中で多種多様の方法で論じられながら、栄養学のみが生命科学の一分野として存続できた。その理由は、栄養素という生命の素を発見し、栄養素の生成に関連する成分を食物から分析したからである。栄養学は、食料不足や偏食により発生した多くの栄養失調症の予防、治療に貢献した。わが国は、第二次世界大戦前後、栄養失調症に悩まされたが、集団給食を介した食料の適正な分配と栄養教育により、短期間に問題を解決した。しかし、1980年以降は過剰栄養による肥満、生活習慣病が問題となる一方で、若年女子を中心としたダイエットによる極端なやせや貧血、さらに傷病者や高齢者の低栄養障害が問題となってきた。このような傾向は、世界中でみられ、Double Burden Malnutrition(DBM)と呼ばれている。DBMとは、同じ国に、同じ地域に、同じ家族に、さらに同じ人物に過剰栄養と低栄養が共存している状態をいう。食生活の欧米化や、家庭や地域で習慣的に伝承されてきた伝統的な食習慣が崩壊し、栄養問題は複雑化、個別化してきている。このような問題を解決するために、人間栄養学を基本とした新たな栄養管理の方法が開発され、栄養・食事の改善を目的にした大規模な介入研究が行われ、その有効性と限界性が議論されている。また近年、同じ栄養量でありながら食品の種類、組み合わせ、調理法、食べる時間や速さ、食物の物性、さらに食べる順位などの食べ方が生体へ及ぼす影響の研究も始まった。栄養や食事が疾病を予防する目的を果たすには「何を、どのくらい食べるか」だけではなく、「どのように食べるか」を議論していく必要がある。
  • -がん対策推進計画を着実に実行するために-
    江口 研二
    2012 年 39 巻 6 号 p. 759-763
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/11/01
    ジャーナル オープンアクセス
     がん検診では対策型検診と任意型検診とのあり方の違いを認識する。集団検診すなわち対策型検診では、当該検診を実施することにより、その有効性(対象集団の当該がん腫による死亡率が有意に低減すること)を検証された検診方法を用いる。現行の胸部写真による肺がん検診は、相応のエビデンスがあり、日本肺癌学会の肺癌診療ガイドラインでも精度管理水準を遵守した胸部写真による集団検診を推奨している。日本で生まれた低線量CT検診による肺がん検診については、2011年に米国の大規模無作為化割付比較試験(NLST研究)でCT検診群の肺がんによる死亡率が対照群に比べ20%低減することが報告された。国際肺癌学会(IASLC)は、現状で対策型検診への導入は時期尚早であるとしている。そして今後の低線量CTによる肺がん検診の方向性について、高リスク群の選別、適切な検診間隔、鑑別診断、確定診断、精度管理などの課題解決を速やかに進めることを声明とした。本邦でもNPO法人によるCT検診の認定医師・認定技師の資格制度が開始され、任意型検診として実施されている低線量CTによる肺がん検診の精度を向上させることが行われている。
  • 山田 悟
    2012 年 39 巻 6 号 p. 764-770
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/11/01
    ジャーナル オープンアクセス
     2010年の日本脂質栄養学会のコレステロールガイドライン(日本脂質栄養学会ガイドライン)の発行を契機に、コレステロール治療の是非をめぐる議論が一時的にかなり沸騰した。マスコミでもとりあげられたので、ご記憶の方も多いと思われる。
     このガイドラインの特徴は、日本動脈硬化学会(JAS)の動脈硬化性疾患予防ガイドライン(JASガイドライン)の根拠となっている介入試験の信頼性に疑念を述べ、「JASガイドライン」の内容を否定する一方で、自らは観察研究のみを根拠に因果関係についての結論を導き出し、介入研究による検証をしていないことにある。また、その作成過程が少数の専門家の合意によるものであったため、内容の妥当性を示す客観的なデータがないことも特徴であった。
     「真実(真理)を知るのは神のみである。人は真実(真理)を知ることはできない。人が知ることができるのは事実(現象)である。人は事実(現象)という覗き窓を積み重ね、はじめて真実(真理)の一面を眺めることができる。眺めている事実(現象)という二次元でもって、真実(真理)という三次元のすべてをみたと思ってはならない」という教えがある。
     その考えにしたがったとき、「日本脂質栄養学会ガイドライン」は、確かに真実の一つの側面を少数例の観察研究からみている一方で、介入研究や基礎実験という別な側面から立体的に眺める努力を怠っているように感じられる。観察研究のみによって因果関係についての証明をなすことはできない。観察研究によってたてられた仮説は介入試験によって立証されるべきであるし、基礎実験によって理論的に裏付けられるべきである。
     臨床医は現時点では「日本脂質栄養学会ガイドライン」に流される必要はなく、日本脂質栄養学会には真実を立体的に眺めるべく、介入研究によって自らの仮説を検証していただきたい。
  • -テストステロンの役割-
    岩本 晃明, 小中 弘之, 杉本 和宏, 高 榮哲, 並木 幹夫, 田中 利明, 吉田 勝美
    2012 年 39 巻 6 号 p. 771-777
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/11/01
    ジャーナル オープンアクセス
     加齢男性性腺機能低下症候群(late-onset hypogonadism;LOH症候群)の定義は、男性ホルモンの低下と男性ホルモン欠落を暗示する徴候や症状を有することが求められている。Hypogonadismと最も関連する症状は性欲の低下(low libido)であるといわれている。他の症状としては抑うつ、苛立ち、不安、生気消失などの精神・心理症状、発汗、ほてり、睡眠障害、集中力低下などの身体症状、性機能関連症状が含まれる。これらの症状は必ずしも低アンドロゲン状態に特異的ではなく、男性ホルモン欠落の疑いを想起させる。すなわちLOH症候群の診断にはこれらの症状の一つあるいはそれ以上と男性ホルモン低値を伴わなければならないとされている。したがってLOH症候群の診断の基本は症状と男性ホルモンを測定することである。
     LOH診断評価にかかせない質問表は多くの施設でHeinemannらのAMSスコアが使用されている。精神・心理症状、身体症状、性機能症状各ドメインに分かれ、その重症度も評価できる。LOH症候群の必須検査は男性ホルモンの測定で総Tは年齢階層別の平均値の推移が、LOH症候群を頻発する初老期から老年期にかけてもYAM値の80%までしか減少しないのに対し、フリーテストステロン(フリーT)は加齢とともに直線的に減少し、若年成人平均値(Young Adult Mean;YAM値)の50%までに低下したことから、学会ではフリーTをLOH診断基準検査とした。そのフリーT値は20歳代のmean-2SDである8.5pg/mL未満をLOHと診断する。今後フリーTがこのLOH症候群の生化学的マーカーとして相応しいのか、LOH症候群の諸症状と併せて検証して行かねばならない。
  • 福田 洋
    2012 年 39 巻 6 号 p. 778-787
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/11/01
    ジャーナル オープンアクセス
     2008年の特定健診・保健指導制度導入以降、特定健診の課題は、データのXML化、被扶養者の受診率の低さ、制度の周知不足、腹囲の妥当性などであり、特定保健指導の課題は、マンパワーやスキルの不足、積極的支援の継続率の低さ、超重症域やメンタルなどの困難例、ポピュレーションアプローチの不足などであった。これらの課題を一言で表現すると「指導に一定の効果はあるが、実施数が少ない」といえる。
     また指導スタッフの「いろいろなメタボに会いました」という発言に示されるように、超重症域、メンタルやがんの合併、視覚・聴覚・知的障害など、さまざまなバックグランドを持つケースの存在が明らかになった。さらに保健指導の質を保つために、指導媒体の工夫やスタッフ教育などに多くの労力とコストがかかっている。一方、予防医学への注目、専門職の保健指導技術の向上、生活習慣病に関するデータが蓄積など、制度の効用も明らかになりつつある。
     「生活習慣病対策が一丁目一番地」といわれて特定健診・保健指導は始まった。40歳以上の特定保健指導を一丁目一番地とすると、今後健保組合の医療費適正化の視点からは、二番地(要治療者の未受診対策)、三番地(治療中への保健指導やジェネリック導入)が重要となろう。事業所では、安全配慮義務の観点から二~三番地に取り組めるし、さらに健康経営やCSRの視点から、従業員のヘルスリテラシーの向上やヘルシーカンパニーの実現を目指し、40歳未満の0丁目を包括した職域ヘルスプロモーションも重要となる。このような協同の努力を、退職後の二丁目(60歳以上)、後期高齢者の三丁目(75歳以上)にどう繋げ、健やかな老いを実現するかが、世界で最も早く超高齢化社会に突入する日本では求められる。生活習慣病対策を俯瞰し、一丁目一番地の先にあるものを考えるとき、保険者と事業所、保健指導機関がいかに役割分担し連携すべきかがみえてくると思われる。
  • -国民にどう情報を還元するか-
    岡山 明, 田川 斉之, 六川 博子, 奥田 奈賀子, 井上 将至
    2012 年 39 巻 6 号 p. 788-793
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/11/01
    ジャーナル オープンアクセス
     わが国の疫学研究の研究水準が上昇するとともに研究規模も急速に拡大してきた。大規模な研究を実施しようとする場合、健診機関との共同研究を行うのが有効な選択肢となっている。わが国では結核検診から始まった健康診断制度が定着しており、幅広く健康情報が集積されている。平成20年からは特定健診制度が導入され、全国の健診結果が集計可能な時代となった。健診分野のエビデンスの集積がますます盛んになっていくと考えられる。
     総合健診の現場では特定健診に加え、がん検診項目や呼吸機能などさまざまな健康情報が集積されてきている。これらを活用するのには3つの方法がある。一時点での健康情報を用いる断面的な研究のなかに既存の情報を用いて定点観測する情報発信の方法がある。さらに新たな企画調査を通常の健診に加えて実施して調査分析結果を公表する方法がある。因果関係を分析する疫学研究として、標準的な手法である前向き研究も実施可能である。一般的には前向き研究は循環器疾患などの発症を追跡して要因を明らかにする手法がある。健診機関単独で実施可能な前向き研究としては高血圧発症などのソフトなエンドポイントを健診機会を利用して追跡する方法がある。わが国では、毎年多数の健診が行われ、受診者の健康増進に寄与してきた。しかし、このデータを集約して国民の福利健康に役立てる視点からは情報発信が不十分であったといえる。精度の高い健診を実施する基盤にのり、新たな情報を国民へ還元する視点を持つことが重要である。
  • 田中 慎二
    2012 年 39 巻 6 号 p. 794-800
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/11/01
    ジャーナル オープンアクセス
     Orion Health Limitedは、医療情報システムに特化したニュージーランドのソフトウエア・ベンダーである。システム統合およびEHR(Electronic Health Record)に強みを発揮し、その分野で世界をリードしている。
     Orion Healthの製品であるRhapsodyTMは、米国の公衆衛生報告において、重要な接続性の機能を提供している。RhapsodyTMは、ほとんどすべての州で使用され、またすべてのタイプの公衆衛生報告で使用され、報告を加速させ、衛生部門に公衆衛生情報への迅速で効率的なアクセスを可能としている。米国疾病管理予防センター(CDC)によって提供されているシステムのように、病院、検査センタ一、公衆衛生の組織および連邦のシステムは、すべて公衆衛生データの収集に関して、RhapsodyTMに大きく依存している。
     RhapsodyTMは、CDCが運用している民全体の電子疾病サーベイランスシステム(NEDSS)で使用され、全国の施設問での、直接の電子データ交換を可能としている。RhapsodyTMは公衆姿勢情報ネットワーク(NEDSS)の機能と仕様に密接にかかわり、有意義なコンポーネントと認められ、多くのCDCプロジェクトで、デファクト・スタンダードになっている。
     全国の分散されたシステム間での情報収集に強みを発揮するRhapsodyTMを活用すれば、全国の健診データを収集し分析を行い、その結果を健診からのエビデンス発信することも、十分可能な時期に来ているといえる。
  • 鈴木 隆史
    2012 年 39 巻 6 号 p. 801-805
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/11/01
    ジャーナル オープンアクセス
     現在の精度管理調査の立場から健診の技術水準の維持を評価する1つの方法は、日本総合健診医学会の精度管理調査に参加している総合健診施設が理想的な一定水準の画像診断、心電図診断と検体検査技術をもって運営されていることを、サーベイの解析結果の集積により客観的に示すことであり、その集積が重要なエビデンスとなると考えている。精度管理調査の基本方針は、「精度管理調査で配布した検体の測定値は、現在の臨床検査技術の水準において、合理的に良好といえる範囲(許容範囲)内にあれば、良好な精度管理の状態にあると考える」である。検体検査では、個々の施設の測定結果がその集団の中で平均値±2SDに入れば「A」評価、画像と生理機能検査では個々の施設の判定結果が複数の専門家による判定において妥当とする範囲にあれば「A」評価と判断している。年4回行われる調査で、施設では自らの足元を確認し、委員会では全国の施設データを解析し、その集束状況など、具体的な数字によるエビデンスとしてフィードバックしている。そして、この評価結果は優良施設の認定基準に組み込まれており、その結果として、現在、全国から参加している約400の健診施設の99%以上が総合判定において「A」評価を得ており、良好な精度管理状態にあると評価されている。このように多くの施設が一定の水準を満たし、全項目「A」評価の施設も少なくないことは、個々の施設とそこに従事する医師、コメディカルなど健診にかかわる方々、さらには機器メーカーをも含めた日頃の努力の賜物である。精度管理調査は健診の根底を担うものとして重要であり、調査に参加している施設の社会的信頼を高めるために今後もエビデンスを発信していく所存である。
  • 須賀 万智
    2012 年 39 巻 6 号 p. 806-810
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/11/01
    ジャーナル オープンアクセス
     総合健診は健康増進サービスであり、受診者の健康の増進(一次予防)と改善(二次予防)に寄与することが求められる。すべての健診機関がエビデンスに基づく質の高いサービスを提供するには、そして生涯健康管理を実現するには、どのような取り組みが必要か、受診者志向の健診・保健指導に向けた総合健診における課題をまとめ、evidence-based healthcareの担い手として学会と各健診機関が果たすべき役割を述べた。
  • 山上 孝司
    2012 年 39 巻 6 号 p. 811-814
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/11/01
    ジャーナル オープンアクセス
     総合健診においては、健診の結果に基づき医師や保健師などが生活習慣改善の指導や助言をするが、どのような生活習慣をどの程度改善すれば、どのような効果がどれくらい現れるかについて、今までエビデンスの蓄積は十分とはいえない。産業保健においては、労災保険が健診にかかった費用を負担する労災二次健診が旧労働省時代に始まり、循環器疾患のリスクを複数持っている人に、頸部エコー検査や心エコー検査を実施し、その結果に基づいて医師や保健師が生活指導を行っているが、これもその効果についてのエビデンスは少ない。
     平成20年度から開始された特定健診・特定保健指導は、共通のプロトコールを用いた壮大な国家レベルの研究ともいえ、保健指導の効果に対するエビデンスが出されると思われる。総合健診の場や、労災二次健診の場においても、我々健診に従事するものがエビデンスを作成し、発信していく必要があると思われる。
     がん検診は、がんを早期に発見することで、死亡率の減少や医療費の削減、QOLの低下を予防するためなどの目的で行われているが、がん検診の効果についてのエビデンスは少なく、がん検診の有効性について疑問が投げかけられることが多い。がん検診に従事する我々としてもしっかりしたエビデンスを作成し、発信していく必要がある。
     これらのエビデンスを作成するために、日本総合健診医学会の中にエビデンス作成委員会を常設することを提案する。委員会のメンバーとして、大学の研究者、研究機関の研究者、健診機関の代表者をあて、エビデンスを作成するためのプロトコールを提示し、各健診機関にデータ提供を依頼する。また各健診機関の方からも、作成してほしいエビデンスを委員会の方にあげてもらう。このようにして多くのエビデンスが作られれば、健診に対する国や国民の理解が進み、健診受診率が上がり、生活習慣の改善がすすみ、健診が国民の健康と福祉に一層貢献することができるようになると思う。
  • -丸紅の対策-
    山澤 文裕
    2012 年 39 巻 6 号 p. 815-820
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/11/01
    ジャーナル オープンアクセス
     総合商社丸紅は世界70カ国に事業所を持つ日本を代表するグローバルカンパニーの1つである。それゆえ、わが国の慣習、法令だけでなく、国際的な慣習や取り決めに対して会社として、従業員として、適切に対応しなければ業務の継続性のある発展や日常生活はあり得ない。
     職場におけるタバコ問題についても同様で、タバコの規制に関するWHO枠組条約第8条で、タバコの煙に晒されることからの保護を求め、受動喫煙防止に関して、完全禁煙か、空間分煙か、どちらかの方策を各所の事業所で取り入れる必要がある。わが国では2003年5月に施行された健康増進法第25条で、受動喫煙防止のための措置を講じるように努めなければならないとされた(公共の場における受動喫煙防止は努力義務)。丸紅で受動喫煙防止を開始したのは1994年で、各自のデスクでの喫煙を禁止(空間分煙)し、2003年の職場における喫煙対策新ガイドラインにより、喫煙者の権利を確保しつつ、受動喫煙防止を目的とし、会議室の禁煙化、オープンスペースの禁煙化、社内喫茶室の禁煙化、喫煙室の設置、タバコ自動販売機の撤去などを実施した。社員教育として衛生委員会でのタバコ問題の審議、社内報や健保広報誌を活用した禁煙キャンペーン、健康診断結果表で喫煙者に対する禁煙指導、社内研修会で禁煙教育などを行っている。一方、事業所のある上記条約締結国の多くでは職場における完全禁煙を法整備し2007年から発効させている。
     これらの施策により、男性社員の喫煙率は2001年48%と高値であったが、2010年36%へ低下した。また、男性新入社員の喫煙率は2001年56%、2010年17%と激減している。喫煙者の減少に伴い、国内の職場においても円滑でトラブルのない完全禁煙化も夢ではない。今後とも、労働者の健康確保と快適な職場環境の形成を図っていきたい。
  • 巽 浩一郎
    2012 年 39 巻 6 号 p. 821-828
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/11/01
    ジャーナル オープンアクセス
     「喫煙による生活習慣病としての呼吸器疾患」というと、慢性閉塞性肺疾患(Chronic Obstructive Pulmonary Disease;COPD)である。喫煙はすべての人に気道炎症を惹起するが、その炎症が慢性化して肺胞構造の破壊、気道狭窄というCOPDの病態を明らかに生じるのは、喫煙者の15~20%である。しかし、COPDが成立すると回復(治癒)はありえない。さらに、その先には肺がんの発症が待っている。喫煙発症COPDでは、喫煙によりCOPDにならなかった場合と比べて、5倍以上の肺がん発症リスクがある。喫煙が急性で生体に健康障害を起こすことは稀である。喫煙の積み重ね、しかも20~30年以上の喫煙習慣が、COPDだけでなく、喘息の悪化、間質性肺炎の発症、肺がんの発症に関係しうる。喫煙は日本以外でも同様と思われるが、それぞれの国の文化に入り込んでいる。17世紀から20世紀の前半までタバコは喘息の治療に使用されてきた。また、人間の歴史で長らく「喫煙は悪」とはされてこなかった。喫煙関係の健康問題が明らかとなり、文化から悪者に変わってきた。そして、喫煙は嗜好ではなく、ニコチン依存症という病気であることも明らかとなり、単に禁煙を叫ぶだけでなく、その治療も可能になってきた。病気は治療よりも予防であるのは近年の認識である。予防は早い方が効果的である。その意味では、学生教育の一環として喫煙による健康障害の認識が必要であり、喫煙関係疾患の認識も必要である。その上で、自らが吸わないで、喫煙者に禁煙を勧めることが社会的にも必要とされている。
  • -科学的根拠に基づくタバコ対策を健診のメインに-
    清水 隆裕
    2012 年 39 巻 6 号 p. 829-835
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/11/01
    ジャーナル オープンアクセス
     本来タバコ対策は、国を挙げてWHOの定め本邦も批准している国際条約「タバコ規制枠組み条約(FCTC)」にしたがってなされるべきである。しかし、いまなお「たばこ事業法」に基づき国家がタバコ消費拡大を図り続けている本邦では、医師をはじめとする医療従事者においてすら、喫煙のもたらす本質的な問題が周知されているとは言い難い。そのため、予防医学を謳う当学会においてでさえ十分な対策がされていないのが現状である。無論、医療従事者ですら得られない情報が喫煙者に周知されているわけもない。そこで我々には、まずは正しい情報に基づいたタバコ対策、およびそれに基づく啓発が求められる。
     ところがほとんどすべての喫煙者はニコチン依存症に陥っており、本邦特有の社会的背景とあいまって強い認知の歪みを有する。そのため、治療開始そのものに対してさえも強い抵抗が示され、容易に解決できるわけでもない。半面、心理療法が効果的で、個別の事例においては認知行動療法や動機づけ面接法が有効であることが示されている。
     また、集団に対しては社会心理学的なアプローチが有効であると思われる。そこでR-STP-4Pと呼ばれるマーケティング・プロセスの活用を提案する。R-STPを端的に表現すれば「だれに」商品を勧めるのかを検討するプロセスであるが、FCTCにしたがい「全人類をタバコの害から守る」ことを念頭に置けば、喫煙者のみならず非喫煙者も含め、対象にならない者は存在しえない。4PはそれぞれProduct(製品)、Price(価格・負担)、Place(場所=アクセス)、Promotion(啓発)の頭文字で、これら4つの要素を確認しながら普及に努めるプロセスをあらわす。
     ヒトは知識だけで行動を変化させることはまれである。しかし、その知識が驚きにつながれば、心が動き、行動が変化する。これらのアプローチ法の応用範囲は喫煙に限らず、ほとんどの生活習慣病における生活習慣改善に対しても応用可能である。
  • -産業医・健診ユーザーの立場から-
    小林 祐一
    2012 年 39 巻 6 号 p. 836-843
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/11/01
    ジャーナル オープンアクセス
     当社では、日本人と任地国従業員(ローカルスタッフ)の間で、日本人だけ特別扱いをしないという経営上の方針がある。一方で、一般定期健診を含め、日本独自の健康管理の歴史と仕組み、産業保健サービスが存在する。また、日本の医療水準は世界トップレベルであるため、自国を離れて暮らす日本人に対して健康管理および医療サービスへの配慮をゼロにすることは難しい。特にアジア地域では、日本に比べて、衛生環境が悪く、医療水準が低い地域があり、現在も一定のサポートが必要である。その意味で本シンポジウムは、日本人の海外勤務者の健康管理に焦点を当てながら国際社会における健診のあり方を議論するよい機会になると信じている。
     海外勤務者の健康管理においては、赴任中に大きな健康障害を生じないだけではなく、生涯健康管理の観点からも、出国前から帰国後まで一貫性のある継続した健康管理をすることが望ましい。そのために、海外健診および事後措置の機会を利用することが有用である。また救急医療・緊急搬送などの対応の場合は、医療サポートエージェント・現地法人・本社人事総務担当者・産業医等が連携する医療サポート体制を構築することが必要である。
     本稿では、産業医としての立場から、海外健診を軸とする海外勤務者の健康管理活動を紹介する。また、健診ユーザーの立場から、当学会の会員である健診機関および企業外労働衛生機関の皆様には、海外健診および事後措置において付加価値の高いサービスを提供していただき、グローバルに展開する日系企業の健康管理活動のサポートをしていただくことを期待している。
  • -医療ツーリズムの動向-
    植村 佳代
    2012 年 39 巻 6 号 p. 844-848
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/11/01
    ジャーナル オープンアクセス
     医療ツーリズムとは、医療を受けることを目的として他の国に渡航することを意味する。インターネットの普及、国際交通網の発達を背景として、世界約50カ国で医療ツーリズムが実施されている。医療ツーリズムは、以前は新興国から先進国への渡航が主流であったが、現在は先進国から新興国へ向かう新たな流れが加わっている。このため、医療ツーリズムの市場規模は拡大しつつあり、なかでもアジアが医療ツーリスト受け入れの一大拠点になりつつある。アジアでは医療ツーリズムに取り組む病院の多くが、営利企業として経営を行っているため、病院側に新たな収益源として医療ツーリズムに積極的に取り組むインセンティブが強くあったことも、アジアにおける医療ツーリズムの拡大に寄与したものと思われる。このような中、わが国においても2010年に閣議決定された政府の「新成長戦略」の中に「国際医療交流(外国人患者の受け入れ)」として医療ツーリズムへの取り組みが盛り込まれている。医療ツーリズムに取り組むにあたっては、医療療機関を中心として異文化・多言語への対応を図るなどさまざまな問題点・課題がある。さらに、これらを解決しつつ、日本の医療に関する積極的な情報発信やマーケティングを行い、日本の医療を知ってもらうとともに現地との交流を深め、双方向の医療交流を進めていくことが必要であろう。
  • 濱田 篤郎
    2012 年 39 巻 6 号 p. 849-854
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/11/01
    ジャーナル オープンアクセス
     国際化時代の到来とともに、企業では従業員への新たな感染症対策の実施が求められている。
     第一には、近年急増している海外勤務者への対策である。この集団は経口感染症(旅行者下痢症、A型肝炎)や蚊が媒介する感染症(デング熱、マラリア)などのリスクが高く、派遣前の予防教育やワクチン接種、帰国後の早期診断・治療といった対策が必要になる。
     第二は、国内企業で働く外国人労働者への対策で、来日後に感染症を発病するケースが最近は数多く報告されている。雇用時の健康診断でスクリーニングを行うとともに、就労後も症状がみられた場合は早めに診療につなげることが大切である。
     第三は、世界的流行が危惧されている鳥インフルエンザへの対策である。この原因となるH5N1型ウイルスは高病原性新型インフルエンザとして流行する可能性が高く、企業としても職場対策を構築し、その流行に備える必要がある。これには2009年の新型インフルエンザ流行の経験が参考になるだろう。
  • 岡村 寛三郎
    2012 年 39 巻 6 号 p. 855-860
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/11/01
    ジャーナル オープンアクセス
     言語ギャップは、宗教や文化といった広範囲な意味を含蓄した言葉の場合は話し手、聞き手の双方が若干でも異なった意味を推測しがちだが、胃や腸、心臓、あるいは噴門や幽門といった体の各部の名称や病気・薬などの個々の名称などから、話し手・聞き手の双方が異なるイメージを推測するということはほとんどない。
     専門用語というのは一般用語とは異なり、意味が誤解されることなく、だれにでも特定されるように限定されるからこそ専門性をもっているのであり、これを誤解する場合があるとしたら、その用語に関わった者が専門教育を受けていないということであって、素人やボランティア通訳・患者の家族などには、誤解や通訳ミスが生じる危険があると考えられる。
     実際、米国の医療現場で言葉の意味の違いで生じた医療過誤のケースをみてみると、いずれも有料・専門の通訳者がかかわっていない場合で、外国語使用の患者とその言語を十分には解釈する能力がなかった医師側スタッフとが直接に診察現場や薬局で交わった場合である。
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