2012 年 39 巻 6 号 p. 778-787
2008年の特定健診・保健指導制度導入以降、特定健診の課題は、データのXML化、被扶養者の受診率の低さ、制度の周知不足、腹囲の妥当性などであり、特定保健指導の課題は、マンパワーやスキルの不足、積極的支援の継続率の低さ、超重症域やメンタルなどの困難例、ポピュレーションアプローチの不足などであった。これらの課題を一言で表現すると「指導に一定の効果はあるが、実施数が少ない」といえる。
また指導スタッフの「いろいろなメタボに会いました」という発言に示されるように、超重症域、メンタルやがんの合併、視覚・聴覚・知的障害など、さまざまなバックグランドを持つケースの存在が明らかになった。さらに保健指導の質を保つために、指導媒体の工夫やスタッフ教育などに多くの労力とコストがかかっている。一方、予防医学への注目、専門職の保健指導技術の向上、生活習慣病に関するデータが蓄積など、制度の効用も明らかになりつつある。
「生活習慣病対策が一丁目一番地」といわれて特定健診・保健指導は始まった。40歳以上の特定保健指導を一丁目一番地とすると、今後健保組合の医療費適正化の視点からは、二番地(要治療者の未受診対策)、三番地(治療中への保健指導やジェネリック導入)が重要となろう。事業所では、安全配慮義務の観点から二~三番地に取り組めるし、さらに健康経営やCSRの視点から、従業員のヘルスリテラシーの向上やヘルシーカンパニーの実現を目指し、40歳未満の0丁目を包括した職域ヘルスプロモーションも重要となる。このような協同の努力を、退職後の二丁目(60歳以上)、後期高齢者の三丁目(75歳以上)にどう繋げ、健やかな老いを実現するかが、世界で最も早く超高齢化社会に突入する日本では求められる。生活習慣病対策を俯瞰し、一丁目一番地の先にあるものを考えるとき、保険者と事業所、保健指導機関がいかに役割分担し連携すべきかがみえてくると思われる。