2012 年 39 巻 6 号 p. 788-793
わが国の疫学研究の研究水準が上昇するとともに研究規模も急速に拡大してきた。大規模な研究を実施しようとする場合、健診機関との共同研究を行うのが有効な選択肢となっている。わが国では結核検診から始まった健康診断制度が定着しており、幅広く健康情報が集積されている。平成20年からは特定健診制度が導入され、全国の健診結果が集計可能な時代となった。健診分野のエビデンスの集積がますます盛んになっていくと考えられる。
総合健診の現場では特定健診に加え、がん検診項目や呼吸機能などさまざまな健康情報が集積されてきている。これらを活用するのには3つの方法がある。一時点での健康情報を用いる断面的な研究のなかに既存の情報を用いて定点観測する情報発信の方法がある。さらに新たな企画調査を通常の健診に加えて実施して調査分析結果を公表する方法がある。因果関係を分析する疫学研究として、標準的な手法である前向き研究も実施可能である。一般的には前向き研究は循環器疾患などの発症を追跡して要因を明らかにする手法がある。健診機関単独で実施可能な前向き研究としては高血圧発症などのソフトなエンドポイントを健診機会を利用して追跡する方法がある。わが国では、毎年多数の健診が行われ、受診者の健康増進に寄与してきた。しかし、このデータを集約して国民の福利健康に役立てる視点からは情報発信が不十分であったといえる。精度の高い健診を実施する基盤にのり、新たな情報を国民へ還元する視点を持つことが重要である。