抄録
「喫煙による生活習慣病としての呼吸器疾患」というと、慢性閉塞性肺疾患(Chronic Obstructive Pulmonary Disease;COPD)である。喫煙はすべての人に気道炎症を惹起するが、その炎症が慢性化して肺胞構造の破壊、気道狭窄というCOPDの病態を明らかに生じるのは、喫煙者の15~20%である。しかし、COPDが成立すると回復(治癒)はありえない。さらに、その先には肺がんの発症が待っている。喫煙発症COPDでは、喫煙によりCOPDにならなかった場合と比べて、5倍以上の肺がん発症リスクがある。喫煙が急性で生体に健康障害を起こすことは稀である。喫煙の積み重ね、しかも20~30年以上の喫煙習慣が、COPDだけでなく、喘息の悪化、間質性肺炎の発症、肺がんの発症に関係しうる。喫煙は日本以外でも同様と思われるが、それぞれの国の文化に入り込んでいる。17世紀から20世紀の前半までタバコは喘息の治療に使用されてきた。また、人間の歴史で長らく「喫煙は悪」とはされてこなかった。喫煙関係の健康問題が明らかとなり、文化から悪者に変わってきた。そして、喫煙は嗜好ではなく、ニコチン依存症という病気であることも明らかとなり、単に禁煙を叫ぶだけでなく、その治療も可能になってきた。病気は治療よりも予防であるのは近年の認識である。予防は早い方が効果的である。その意味では、学生教育の一環として喫煙による健康障害の認識が必要であり、喫煙関係疾患の認識も必要である。その上で、自らが吸わないで、喫煙者に禁煙を勧めることが社会的にも必要とされている。