抄録
医療ツーリズムとは、医療を受けることを目的として他の国に渡航することを意味する。インターネットの普及、国際交通網の発達を背景として、世界約50カ国で医療ツーリズムが実施されている。医療ツーリズムは、以前は新興国から先進国への渡航が主流であったが、現在は先進国から新興国へ向かう新たな流れが加わっている。このため、医療ツーリズムの市場規模は拡大しつつあり、なかでもアジアが医療ツーリスト受け入れの一大拠点になりつつある。アジアでは医療ツーリズムに取り組む病院の多くが、営利企業として経営を行っているため、病院側に新たな収益源として医療ツーリズムに積極的に取り組むインセンティブが強くあったことも、アジアにおける医療ツーリズムの拡大に寄与したものと思われる。このような中、わが国においても2010年に閣議決定された政府の「新成長戦略」の中に「国際医療交流(外国人患者の受け入れ)」として医療ツーリズムへの取り組みが盛り込まれている。医療ツーリズムに取り組むにあたっては、医療療機関を中心として異文化・多言語への対応を図るなどさまざまな問題点・課題がある。さらに、これらを解決しつつ、日本の医療に関する積極的な情報発信やマーケティングを行い、日本の医療を知ってもらうとともに現地との交流を深め、双方向の医療交流を進めていくことが必要であろう。