抄録
【目的】職域における午後からの胃X線検査の有用性と胃がんリスクに応じた胃がん検診を検討した。
【対象と方法】平成24年7月より6か月間、川崎医科大学附属川崎病院では職員定期胃がん検診時に同意が得られた35歳以上の職員240名を対象として、検診前に血清ペプシノゲン値(PG)と血清ヘリコバクター・ピロリ(HP)抗体価を測定した。その検体検査の組み合わせによって胃がん発生のハイリスク群とローリスク群を選定した。胃がんリスクの評価はPGI≦70ng/mLかつPGI/II比≦3.0をPG陽性、HP≧10μ/mLをHP陽性とし、PG(-)HP(-)をA群、PG(-)HP(+)をB群、PG(+)HP(+)をC群、PG(+)HP(-)をD群、HP除菌後(成功)をE群、再燃(除菌成功後)をF群とした。胃がん検診はC群、D群は上部消化管内視鏡検査、それ以外は直接胃X線検査を実施した。今回の胃X線検査対象者で前年度にX線検査を実施した者は、同意を得た場合に限り午後からの検診とし、そのX線診断結果を前年度と比較検討した。午後からの胃X線検査の場合、朝食は午前7時までの摂取または最終摂取時間より約6時間以上は絶食とした。飲水は検査実施1時間前までの摂取は可能とした。統計解析は読影診断結果の複合効果の想定には3元配置分散分析を用い、p値を算出し、p<0.05で有意差ありと判定した。
【結果】240例中胃がん発見率0%、リスク評価別分類はA群69.2%、B群15.0%、C群10.8%、D群0.8%、E群3.3%、F群0.8%で、胃X線検査は午前83名(39.2%)、午後129名(60.8%)、内視鏡該当者28名(11.3%)となった。午後からの胃X線検査には有害事象は認められず、診断結果には問題は認められなかった。
【考察】胃がんリスク評価により胃がんリスクに応じた胃がん検診の実施や午後からの胃X線検査は胃がん検診受診率の向上と、効率的かつ効果のある検診が期待できると考えられた。本研究により川崎学園では、平成25年度より35歳以上の全職員対象に胃がんリスク評価を実施し、胃がんリスクに応じた検診を導入している。