抄録
肥満は2型糖尿病や脂質代謝異常症、高血圧に代表されるような動脈硬化性疾患のリスク因子に加え、蛋白尿や非アルコール性脂肪肝(non-alcoholic fatty liver disease: NAFLD)、高尿酸血症など様々な疾患・病態の発症基盤となることから、肥満をどのように診断し、どのような対象に介入を行うかは重要である。わが国では欧米のような高度の肥満者は少ないにも関わらず、2型糖尿病や脂質異常症、高血圧などの肥満に関連する疾患の有病率は比較的高いことから、欧米より厳しい基準で肥満を診断することは妥当と考えられる。日本肥満学会では、肥満に関連する健康障害の有病率に関する疫学調査などから、BMI18.5以上25未満を普通体重とし、これを超えるものを肥満、下回る者を低体重と定義している。また、肥満の中でも、医学的に減量を必要とする病態を肥満症と呼び一つの疾患単位として捉えることを提唱してきた。肥満症の考え方として、現在健康障害を持つものだけではなく、将来健康障害を発症する可能性が高いものを含む点が重要である。内臓脂肪型肥満が健康障害を伴いやすいハイリスク肥満であることは知られている。内臓脂肪型肥満の診断手順は、ウェスト周囲長によるスクリーニングの後、腹部CT検査により内臓脂肪面積を測定する。一方、日本人間ドック学会・健康保険組合連合会により公表された「新たな検診の基本検査の基準範囲」は、特定の疾患を持たず、特定の疾患の薬物治療を受けていない集団の平均的なBMIの分布範囲を示したものにすぎない。この基準範囲にはハイリスク肥満である内臓脂肪型肥満が含まれており、これらは減量介入が必要な肥満症患者であることを強調したい。健診や人間ドックに従事される方は、これらの診断基準や基準範囲の設定の手法、目的の差異を十分に理解の上、業務にあたられたい。