うつ病などの精神疾患が単一の要因による疾患ではなく、複数の要因が関与した症状群だからである。したがって、治療に役立つ診断になるためには、単に症状だけに目を向けるだけではなく、発症に関与した可能性のある社会的、心理的、生物学的な要因を考慮し、一人の人として総合的に判断する“みたて”が極めて重要になってくる。そこで本稿では、世界的に用いられているアメリカ精神医学会の「精神疾患の診断・統計マニュアル第5版(DSM-5)」をもとに、うつ病の診断と治療の新しい考え方を紹介し、さらに職域における予防の可能性についても論じることにしたい。