総合健診
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総合健診と遺伝子関連検査
遺伝関連ドックの現状と未来
田口 淳一堀尾 留里子
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ジャーナル オープンアクセス

2022 年 49 巻 2 号 p. 263-270

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抄録

 日本人間ドック学会では遺伝学的検査検討委員会を立ち上げ、広い範囲の予防医学関係者の遺伝学知識向上をめざし、遺伝医学専門家との相互協力を可能にするために、各専門家の協力のもとにQ&A集およびWEB e-learningプログラムを作成し、遺伝学的検査アドバイザー講習として2019年より開始している。

 まず最初に予防医学に導入すべき遺伝学的検査としては、ゲノム薬理学とHLA検査が挙げられる。ゲノム薬理学でどんな薬が安全、効果的に使用できるかどうかをかなり予測できることが知られており、またHLAも重篤な皮膚副作用や多くの疾患の易罹患性に関係していることが判明した。人間ドックでこれらの遺伝情報を先に知ることが重要と考える。特にCYP2C19、CYP2C、CYP2D6などはクロピドグレルをはじめとする循環器関連薬や精神科関連薬などの代謝に大きくかかわっている。

 次に多因子疾患の遺伝的リスクは実際に冠動脈疾患、認知症、胃がんの発症リスクの増加と関連しており、生活習慣を改善することで発症リスクを低減できることが示された。最新のpolygenic risk score(PRS)は既知のどんなリスクファクターより疾患予測に関して有用と考えられ非常に期待されている。

 また米国臨床遺伝・ゲノム学会(ACMG)は全ゲノム検査で発見された場合に本人に知らせるべき常染色体優性遺伝性疾患を発表し、現在は第3版である。これらは成人発症の家族性腫瘍と循環器・代謝関連の疾患群であり、病的バリアントは健常人の約2%に存在すると考えられ、発症予防・早期発見の観点から予防医学において重要な役割を果たすと考えられる。今後は有効なスクリーニング方法の開発、保険との関係性、遺伝的差別禁止などの個人情報保護などの対策が重要である。

 またこれらを網羅した全ゲノムドックの試みも開始されている。

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© 2022 一般社団法人 日本総合健診医学会
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