総合健診
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49 巻, 2 号
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特集
総合健診と遺伝子関連検査
  • 山上 孝司
    原稿種別: 特集
    2022 年 49 巻 2 号 p. 255-262
    発行日: 2022/03/10
    公開日: 2022/04/20
    ジャーナル オープンアクセス

     遺伝性疾患として単一遺伝子病と多因子疾患の例を取り上げ、現在における遺伝子検査の現状、今後の課題について述べた。単一遺伝子病の中の遺伝性乳がん卵巣がん症候群については、BRCA1/2遺伝子の変異を持っている場合についての対策と、必要と思われる人にはこの遺伝子の検査を勧めて行くことが今後求められる。多因子疾患における遺伝要因の解析方法であるGWASの説明と、その1つの活用法であるPRSについて説明した。今後は、日本人のゲノムを使って各疾患ごとのGWASの解析とPRSの作成を行っていくことにより、日本人特有の遺伝要因の解析が進んでいくと思われる。

     多因子疾患のうちのアルツハイマー病については、今後APOE遺伝子のアレルを調べる人が増えると思われ、リスクの高い人に対する生活上の注意点について述べた。冠動脈疾患については、たとえGWASやPRSによってリスクが高いと判定されても、生活習慣を望ましくすることで発症リスクを下げられることを受診者に話す必要がある。

     多因子疾患の遺伝要因を説明するためには、ゲノムの構造だけでなくエピゲノムの変化も大事である。エピゲノムの変化は運動や喫煙、ストレスなどの生活習慣要因によって起こることを受診者に理解してもらい、行動変容に結び付けてもらうことが必要である。

     総合健診に従事するものとして、家族歴、GWAS、PRSなどの結果から遺伝要因が強いと思われる受診者に対しては、その疾患の早期発見につながる検査を受診することを奨励するとともに、遺伝要因が強くても生活習慣の改善によって疾病の先送りが可能であることをよく説明して、環境整備やナッジも行使して、望ましい生活習慣の実践を後押しし、遺伝子関連検査が受診者にとってよいものとなるように常に研鑽を積む必要がある。

  • 田口 淳一, 堀尾 留里子
    原稿種別: 特集
    2022 年 49 巻 2 号 p. 263-270
    発行日: 2022/03/10
    公開日: 2022/04/20
    ジャーナル オープンアクセス

     日本人間ドック学会では遺伝学的検査検討委員会を立ち上げ、広い範囲の予防医学関係者の遺伝学知識向上をめざし、遺伝医学専門家との相互協力を可能にするために、各専門家の協力のもとにQ&A集およびWEB e-learningプログラムを作成し、遺伝学的検査アドバイザー講習として2019年より開始している。

     まず最初に予防医学に導入すべき遺伝学的検査としては、ゲノム薬理学とHLA検査が挙げられる。ゲノム薬理学でどんな薬が安全、効果的に使用できるかどうかをかなり予測できることが知られており、またHLAも重篤な皮膚副作用や多くの疾患の易罹患性に関係していることが判明した。人間ドックでこれらの遺伝情報を先に知ることが重要と考える。特にCYP2C19、CYP2C、CYP2D6などはクロピドグレルをはじめとする循環器関連薬や精神科関連薬などの代謝に大きくかかわっている。

     次に多因子疾患の遺伝的リスクは実際に冠動脈疾患、認知症、胃がんの発症リスクの増加と関連しており、生活習慣を改善することで発症リスクを低減できることが示された。最新のpolygenic risk score(PRS)は既知のどんなリスクファクターより疾患予測に関して有用と考えられ非常に期待されている。

     また米国臨床遺伝・ゲノム学会(ACMG)は全ゲノム検査で発見された場合に本人に知らせるべき常染色体優性遺伝性疾患を発表し、現在は第3版である。これらは成人発症の家族性腫瘍と循環器・代謝関連の疾患群であり、病的バリアントは健常人の約2%に存在すると考えられ、発症予防・早期発見の観点から予防医学において重要な役割を果たすと考えられる。今後は有効なスクリーニング方法の開発、保険との関係性、遺伝的差別禁止などの個人情報保護などの対策が重要である。

     またこれらを網羅した全ゲノムドックの試みも開始されている。

  • 岡﨑 康司
    原稿種別: 特集
    2022 年 49 巻 2 号 p. 271-277
    発行日: 2022/03/10
    公開日: 2022/04/20
    ジャーナル オープンアクセス

     臨床の現場においてエキソームや全ゲノムシーケンスを用いた精密医療が指数関数的に成長し、多くのラボでシーケンシングを検査のポートフォリオに入れつつある。全ゲノムシーケンスのコストは1人当たり10万円を切るようになってきたが、その解析を行い、臨床的意義について解釈するためには、膨大なデータを迅速かつ正確に処理する必要があり、ここには、シーケンス自体のコストの数倍のコストがかかる。全ゲノムシーケンスを用いたクリニカルシーケンスなどで、先頭を走る米国の施設を中心に、いくつかの事例を紹介し、Genomics Englandのプロジェクトについても解説する。全ゲノム情報を用いた解析から、最終的に臨床の現場で用いられるレポート作成までを行うツールは種々開発されつつあるが、本稿では、Genomics Englandのプロジェクトにおいて評価を得た、Fabric Genomics社が開発したツールを中心に、クリニカルシーケンスの現状についても紹介する。

  • 山下 直秀
    原稿種別: 特集
    2022 年 49 巻 2 号 p. 278-288
    発行日: 2022/03/10
    公開日: 2022/04/20
    ジャーナル オープンアクセス

     遺伝関連検査は最近注目を集めている。消費者直結遺伝子検査(direct-to-consumer: DTC)も多く行われるようになっているが、DTCには問題点も残されている。これまでの私達の検討から、遺伝関連検査は適切に行えば予防医療に役立つ可能性があることが見いだされている。本稿では、このような取り組みを通じて作り上げていったインフォームドコンセントのための説明・同意文書と遺伝関連検査の結果説明方法を解説する。遺伝関連検査の説明・同意書には検査の目的、意義、方法、個人情報の保護など記載すべき種々の項目があるが、それぞれについて概説した。遺伝関連検査は個人のゲノム情報を扱うので個人情報保護は特に重要である。結果報告については、①健康診断・人間ドックの結果、②レアバリアント・コモンバリアントの解析結果、③家族歴の3つの資料を用い、原則として医師が対面で行う。結果報告書はかなりの分量があるが、説明は約40分から1時間以内で終了するようにする。レアバリアントが認められる場合は、専門家による遺伝カウンセリングと専門医による治療方針の決定、及びフォローアップが必要になる。これらはコモンバリアントの結果説明に先んじて行われる。コモンバリアントでは疾患、体質、薬剤応答の3つの結果を報告するが、疾患の説明では、疾患リスクが遺伝要因と環境要因で構成されていることをよく理解させる。そして、①疾患の遺伝学的リスクが高くても、環境リスクを減らすことで疾患の発症リスクを低下させることができること、②環境リスクの軽減は受検者の生活環境の改善で達成できること、すなわち自分自身の努力で疾患の発症をある程度コントロールできるようになる、ということをよく理解させることが大切である。

原著
  • 村田 淳子, 吉岡 有紀子
    原稿種別: 原著
    2022 年 49 巻 2 号 p. 289-298
    発行日: 2022/03/10
    公開日: 2022/04/20
    ジャーナル オープンアクセス

    【目的】従業員食堂運営担当課職員へ従業員食堂での栄養教育に関する情報提供を行うことによる、従業員食堂での喫食者の健康づくりのための栄養教育の実施可能性を検討する。

    【対象者】市役所職員食堂(以下、食堂)の運営担当課(以下、担当課)職員4人及び受託給食会社(以下、給食会社)従業員1人。

    【方法】食堂の実態を踏まえて作成した「食堂での栄養教育に関するマニュアル」を用い、対象者へ情報提供を行い、その内容に関する知識と態度について無記名の自記式質問紙調査を実施した。分析は、KAP-KABモデル、計画的行動モデル、自己効力感・意図の概念に基づき症例集積研究として報告した。

    【結果】食堂での栄養教育に関する知識は、担当課職員全員が『おいしく楽しい食事』『健康づくり』『衛生的で安全な食事の提供』『関係部門・職種との連携』の各取組について「分かった」と回答した。態度(意図)も、担当課職員全員がマニュアルを読んで食堂での健康づくりのための昼食サービスをやってみたいと「思った」「まあまあ思った」と回答した。一方、態度(自己効力感)が高い回答と低い回答が見られ、取組により異なった。給食会社従業員の態度(意図)は、栄養管理業務に携わった事がない担当課職員がマニュアルの内容を理解した場合に連携がとりやすくなると「まあまあ思う」と回答した。一方、マニュアルの内容全体を理解した場合には「あまり思わない」であった。

    【考察】マニュアルでの情報提供により担当課職員の食堂での栄養教育に関する知識と態度が向上したことから、担当課による食堂での喫食者の健康づくりのための栄養教育の実施につながる可能性が高いと考えられた。担当課職員のよる確実な栄養教育の実施や給食会社と関係部門等との連携した栄養教育の実施には、提供する情報の再検討と追記、行動変容ステージを考慮した情報提供、関係職種・部門の連携を推進する働きかけが必要である。

  • 笹目 敦子, 五関 善成, 林 靖生, 大垣 洋子
    原稿種別: 原著
    2022 年 49 巻 2 号 p. 299-307
    発行日: 2022/03/10
    公開日: 2022/04/20
    [早期公開] 公開日: 2022/01/13
    ジャーナル オープンアクセス

    【目的】当院人間ドックでは年間約2,400件の肺ヘルカルCTを施行している。肺疾患精査が目的だが、CT機器の精度向上に伴い、冠動脈石灰化を多く確認するようになった。冠動脈石灰化を偶発病変として要精密検査と判定し、石灰化を認める症例において冠動脈有意狭窄の有無や、リスク因子について検討した。

    【対象】2019年1月から同年12月の間に、当院ドックで肺ヘルカルCTを施行した2,426名。

    【方法】1)以下を評価項目とし、冠動脈石灰化の有無で評価した。

     性別、年齢、喫煙の有無、Brinkman指数、BMI、内臓脂肪面積。高血圧、糖尿病、高脂血症の有無。血圧測定値、HbA1c、LDL-C、中性脂肪、HDL-C、eGFRの検査値。

     2)健診後に医療機関受診を確認できた症例で、冠動脈造影CTまたは冠動脈造影検査(CAG)のいずれかを行なった「非PCI群」と、経皮的冠動脈形成術(PCI)を施行した「PCI群」で、同評価項目に有意差があるかを検討した。

    【結果】1)肺ヘルカルCTは2,426名に行い、冠動脈石灰化を296名(12%)に認めた。2)冠動脈石灰化を有する群は、有しない群に比べ、eGFRを除く評価項目で有意差を認めた。3)冠動脈石灰化を有した296名中80名の医療機関受診と検査結果を確認できた。受診後検査で80名中34名は冠動脈造影CTのみ、46名はCAGを施行し、16名(0.7%)にPCIが施行された。4)「PCI群」は「非PCI群」と比較し、糖尿病の有病者が有意に多かった。

    【結語】冠動脈石灰化を認める群は、eGFRを除き冠危険因子の保有率が有意に高かった。冠動脈石灰化を認める糖尿病有病者は、PCI適応となる冠動脈狭窄を認める率が有意に高かった。

     冠動脈石灰化は、小石灰化でも有意狭窄を認める症例があり、健診時の評価項目のみでは判別困難のため、未精査の場合は専門医療機関での評価が必要と思われた。

    Editor's pick

    2023年度 優秀論文賞(和文)の受賞論文です。

  • 石井 広二, 旭 久美子, 吉田 礼子, 荒井 勝己, 増野 弥生, 齋藤 陽子, 勝川 史憲
    原稿種別: 原著
    2022 年 49 巻 2 号 p. 308-316
    発行日: 2022/03/10
    公開日: 2022/04/20
    ジャーナル オープンアクセス

    【目的】肥満による血圧高値のリスクを3つの肥満判定基準を用いて比較検討し、さらに血圧高値の判定に対してBMIと腹囲がどのように関係するかを比較検討する。

    【方法】東北地方の隣接する2県の2013年職域健康診査受診者のうち、データ欠損者、降圧薬服用者と不明者、喫煙者、および臨床的にありえない値の者を除く20歳以上60歳未満の15,560名(男性:7,126名、女性:8,434名)を対象とした。男女を20-30歳代と40-50歳代の2世代に分け、3つの肥満判定基準(BMI基準、JASSO腹囲基準、WHO腹囲基準)に対して、血圧について4つのカットオフ値(収縮期血圧/拡張期血圧:≧120/80、≧130/80、≧130/85、≧140/90mmHg)を設定し、オッズ比を比較した。また、血圧カットオフ値に対するBMIと腹囲についてROC曲線のAUCをDelong検定で比較し、それぞれのカットオフ値を算出した。

    【結果】すべての肥満判定基準で、男女とも20-30歳代のオッズ比(男性:3.78-6.75、女性:3.80-8.37)の方が、40-50歳代のオッズ比(男性:1.87-2.64、女性:2.41-4.15)よりも大きかった。ROC曲線のAUCによるBMIと腹囲の比較では、多くの基準で有意差がなかった(女性40-50歳代≧120/80を除く)。また多くのROC曲線において、AUC<0.7であった。

    【結論】本対象集団において、BMIと腹囲では血圧高値判定能力に有意な差はないと考えられた。また、多くの基準で、AUC<0.7であるため、肥満判定指標のみによる血圧高値の予測には限界があると考えられた。

  • 春日 郁馬, 武田 義次, 佐藤 健, 森 みゆき
    原稿種別: 原著
    2022 年 49 巻 2 号 p. 317-323
    発行日: 2022/03/10
    公開日: 2022/04/20
    [早期公開] 公開日: 2022/01/13
    ジャーナル オープンアクセス

    【目的】我々は新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)ワクチン接種後の抗体量を調べると共に、抗体量と関連する因子について明らかにすることを目的とした。

    【対象】2021年5月から7月にファイザー製もしくはモデルナ製のSARS-CoV-2ワクチンを2回接種した当法人職員のうち、SARS-CoV-2抗体量調査に参加した152名を対象とした。

    【方法】ワクチン2回接種終了日から7日以上経過後にSARS-CoV-2抗スパイクタンパクIgG抗体量を測定した。また年齢、性別、接種後の発熱、ワクチンの種類などが抗体量と関連するかどうかについて併せて調べた。

    【結果】測定した者全員に抗体量の上昇を認めた(中央値7,314AU/mL)。45歳未満の者は45歳以上の者より有意に高値であった(p<0.01)。接種後に37.5℃以上の発熱を認めた者は37.4℃以下の者より有意に高値であった(p<0.01)。モデルナ製のワクチンを接種した者はファイザー製のワクチンを接種した者より有意に高値であった(p<0.01)。また接種後の日数が経過した者は抗体量がやや低くなる傾向を認めた。

    【考察】年齢、発熱の程度、ワクチンの種類等が抗体量と関連する可能性が示唆された。また日数の経過に伴い抗体量が低くなる傾向があることから、今後の疫学的動向も踏まえてSARS-CoV-2ワクチンの追加接種を検討する必要があると考えられた。

大会講演
第49回大会
  • 渡辺 久美
    原稿種別: 大会講演
    2022 年 49 巻 2 号 p. 324-328
    発行日: 2022/03/10
    公開日: 2022/04/20
    ジャーナル オープンアクセス

     新型コロナウイルス感染症に伴う緊急事態宣言が発令され、国民の生活様式は一変した。

     在宅勤務により身体活動量が低下し、リモートワークよる眼精疲労、肩こり、頸部痛、腰痛の悪化がみられた。また都市部在住の高齢者は、身体活動量の時間が減少し、フレイルの進行が懸念される。ウィズコロナの生活が続くことで、慢性疾患の悪化、免疫力の低下、筋力の低下、ストレスによるメンタルヘルスの不調を招くことが予想される。

     コロナ禍の状況から、健診受診者に対しての運動指導は以下の3つの関わり方を提案する。1つ目は行動科学の視点を踏まえた意識的な保健指導を行うことである。2つ目は健診受診者自身が運動不足であることを認識しているため、その情報から身体活動促進の働きかけをタイムリーに行うことである。3つ目は簡単な体操を一緒に行いながら、コロナ禍の生活で変化した身体を体感してもらうことである。

     無理難題な運動を指導しても継続は困難である。まずはコロナ前の身体活動へ戻すことが大切である。

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