2023 年 50 巻 6 号 p. 565-574
Einthovenらにより発明された心電図検査は100年以上の歴史を持つ。現在でも重要な検査として使い続けられている。心電図をコンピュータにより自動的に診断しようという試みは1960年代より始まっている。当初はアナログ波形をデジタル信号に変換する事すら困難であったが、1970年代には心電計、ミニコンピュータ、テレタイプライターの3台構成からなる自動診断システムが完成し、1980年代には1台の心電計の筐体のなかに自動診断機能、印刷機能が内蔵されるようになっている。自動診断の精度は、開発初期から正常波形については高かったものの、複雑な波形、小さな波形の診断については現在でも困難な事例も多い。心電図自動診断に関する問題を検討するために、研究者、企業の技術者、臨床医などからなる「心電図自動診断を考える会」が結成され議論が行われ、自動診断における、所見名、診断名の統一についてエキスパートコンセンサスステートメントが発表された。さらに自動診断の精度については、不適切事例の検討から、心筋虚血に関する過剰診断・過小診断が多数を占めるほか、頻度は低いが心房細動の誤診、ペーシングスパイクの見落としなども認められることが示された。自動診断の未来を考える上で、Apple Watchをはじめとするスマートウォッチの普及により、心電図表示機能を用いて、個人が自分の心電図波形を記録し所有する状況が起きている事には注意が必要であると考えられる。現在の自動診断の精度をより向上させるためには、従来のアルゴリズムを改良する事の他に、AI診断理論を用いたプログラムの有用性も示唆される。