2026 年 53 巻 2 号 p. 302-307
日本の保健事業は長らく「実施すること」を重視し、KPIとして実施率が設定されてきた。しかし、少子高齢化や社会構造の変化により、画一的な施策を単に実施するだけでは国民に必要なサービスを届けることが困難となっている。この背景を踏まえ、第3期データヘルス計画では、保健事業の目的を「実施」から「解決」へと転換し、データに基づく課題抽出と事業設計を明確に位置づけた。本稿では、特定健診・特定保健指導の実効性を高めるデータ活用のあり方を、①事業設計、②事業評価、③知見の抽出の3つの視点から整理し、さらに実装科学を進めるためのデータ基盤構築について考察する。
事業設計では、地域・職域の医療費や健診データを分析し、健康課題に即した介入策を設計することが重要である。東京大学と共同研究を実施した自治体では、9割以上の健康課題に対応する事業が設計されており、課題解決志向の取り組みが進んでいることが確認された。事業評価では、従来の自治体間比較困難という課題に対し、第3期計画から共通評価指標が導入され、KDBシステムやデータヘルス・ポータルサイトを活用した標準化が進み、客観的評価が可能となった。知見の抽出では、PDCAの目的化を防ぎ、科学的評価と知見蓄積を政策に反映する仕組みが求められる。東京大学が開発した「保健事業カルテ」により、自治体の工夫を構造化し、知見共有の基盤の構築が始まっている。
さらに、実装科学を進めるには、個人・集団レベルのデータを統合し、因果推論に耐える介入研究を可能にするデータ基盤が不可欠である。職域ではポータルサイト、国保では「データヘルス計画標準化ツール®」の整備が進み、労働生産性指標SPQや医療資源配分手法など、評価指標の開発も進展している。
最後に、データを活用した特定健診・特定保健指導の実効性向上策として、「必要性の明示」と「メリットの可視化」を挙げた。個人には健診結果の時系列や将来予測、企業には生産性損失低減、自治体には医療資源最適化の指標を提示することで、対象者と関係者の行動変容を促し、保健事業の質向上と国民のWell-beingに資する仕組みの構築が期待される。