2012 年 9 巻 p. 69-92
本研究は、大学体育の教育実践の現場に着目し、教育目標(伝授すべきこと)、教員の教授(伝授しようとしたこと)、学生の学習(伝授されたこと)の間にどのような整合・不整合性が認められるのかを調査し、今後の大学体育の価値向上に向けた方向性を示唆することを目的とした。
研究方法はT大学において共通科目「体育」を受講した卒業生および担当した教員を調査対象とし、アンケート調査を行った。内訳は、卒業生386名、教員12名である。アンケート調査は「健康・安全・体力の保持増進と向上」、「人間・人間関係の形成」、「スポーツの普及と振興」という3つの観点(大学体育三大意義)について実施した。評価尺度は、6(とても思う)から1(まったく思わない)の6段階とし、これを卒業生の場合は「学習得点」、教員の場合は「教授得点」とした。
大学体育三大意義におけるそれぞれの分野の「教授得点」と「学習得点」を比較したところ、全ての観点において、教授得点と学習得点の間に有意な差が認められた。また、「人間・人間関係の形成」において、教授得点が最も高い値を示したのに対して、学習得点は最も低い値であった。
因子分析の結果より、T大学における大学体育活動の更なる充実と価値向上に向けた課題として、以下の2つが示唆された。
(1)大学体育三大意義を踏まえた教育実践の場を目的整合的に再設計し、教員の教授意識に組織としての一定の合意性及び一貫性を図っていくこと。
(2)三大意義と教育目標を具現化し、整合性の高い学習成果を図っていく為の具体的な教授方法について研究を図っていくこと。
大学体育界全体が大学体育の価値向上に向けて取り組むべき課題としては、原点である大学体育三大意義を具現化していく教授法を日々追究していくことで、高い学習成果を発揮し教養教育に欠かせない存在へと体育の教育的価値を高めていくことが重要であることが示唆された。