大学体育学
Online ISSN : 2189-8766
Print ISSN : 1349-1296
ISSN-L : 1349-1296
9 巻
選択された号の論文の16件中1~16を表示しています
表紙、目次など
総説
  • 木内 敦詞, 橋本 公雄
    2012 年 9 巻 p. 3-22
    発行日: 2012年
    公開日: 2018/01/09
    ジャーナル オープンアクセス

    この総説の目的は,大学体育授業による健康づくり介入研究の意義と必要性を述べ,日本の大学体育教員の授業研究への動機づけを高めることであった.第1に,大学体育授業による健康づくり介入研究の教育的意義を指摘した.すなわち,健康づくりと友達づくりの場としての体育授業は,今日の大学における初年次教育の重要な要素である「学問的適応」と「社会的適応」の双方への貢献が期待されるものの,このような期待される教育効果の検証はこれまで十分になされていないことを述べた.第2に,大学体育授業による健康づくり介入研究の持つ公衆衛生的意義を指摘した.すなわち,座位行動蔓延と大学大衆化進行により,大学体育の公衆衛生的役割がいっそう高まっていることを述べた.第3に,大学体育授業による健康づくり介入研究の学術的意義を指摘した.すなわち,「大学生」の健康づくり介入研究,とりわけ,「身体活動」増強のための介入研究は国内外を含めてもまだ初期段階にあり,これまで大きな成果はあがっていないことを述べた.その後,以下のことについて討論した;大学生の生活習慣・健康度に関するこれまでの知見,わが国の健康づくり対策と学校体育の関係,わが国の大学体育の歴史と新たな動き,米国学校体育の転換,行動科学を活かした健康づくりの動向.最後に,大学生の健康づくり研究の今後の課題として,以下の4点を挙げた;1)大学体育のラーニング・アウトカムを提示すること,2)理論およびエビデンスに基づく介入研究を行うこと,3)介入効果の科学的評価が可能な研究をデザインすること,4)大学生対象の健康づくり(とりわけ,身体活動)介入研究を行うこと.

原著論文
  • ―ポートフォリオ学習システムを用いた人間関係づくりを目指した体育授業―
    清水 安夫, 宮﨑 光次, 武田 一, 田中 千晶, 川井 明, 阿久根 英昭, 煙山 千尋, 尼崎 光洋
    2012 年 9 巻 p. 23-41
    発行日: 2012年
    公開日: 2018/01/09
    ジャーナル オープンアクセス

    現在,日本の大学生の対人関係の問題が深刻化している.本研究では,研究Ⅰにおいて,「大学生版体育授業用ソーシャル・スキル尺度(Social Skill Scale for University Physical Education Classes:SSUPEC)の開発を行い,研究Ⅱでは,ポートフォリオ学習システムを用いた大学体育の授業実践による,大学生のソーシャル・スキル変容への効果の検討を行った.

    研究Ⅰでは,2010年4月に,日本人大学生447名(男性=212名,女性=235名,平均年齢=19.58歳,SD=1.35)を対象に,質問紙調査(基本的属性,体育授業用ソーシャル・スキル尺度24項目)を行った.探索的因子分析,信頼性分析,検証的因子分析の結果,「大学生版体育授業用ソーシャル・スキル尺度(SSUPEC)」は,4因子構造(各4項目の合計16項目)であり,尺度の信頼性及び構成概念妥当性においては,統計学的に許容範囲であることが示された.

    研究Ⅱでは,383名の学生を実験群と統制群の2群に分け,2010年の4月(pre−test)及び7月(post−test)の2度において,質問紙調査による比較検討を行った.具体的には,実験群は,スポーツ実技(バスケットボール)を履修している学生(男性=48名,女性=39名,平均年齢=20.04歳,SD=1.30)とし,統制群は,講義科目(健康とスポーツの概論)を履修している学生(男性=130名,女性=166名,平均年齢=19.46歳,SD=1.35)であった.スポーツ実技科目であるバスケットボールのクラスを履修している学生は,ポートフォリオ学習システムを導入した学習方法での授業を受講し,講義科目である健康とスポーツ概論を履修している学生は,通常の教室で行われる座学スタイルでの授業を受講した.両クラスでの調査対象者は,基本的属性(学部,学年,性別,年齢,スポーツ実技科目受講中の有無等),「大学生版体育授業用ソーシャル・スキル尺度(SSUPEC)」,「大学生版体育授業用効用認知尺度(Effective Cognition Scale for University Physical Education Classes:ECSUPEC)」,「大学生版体育授業用ストレス反応尺度(Stress Response Scale for University Physical Education Classes:SRSUPEC)」から構成された質問紙調査に,2010年の4月(pre−test)と7月(post−test)の2度に渡り回答を行った.入力されたSSUPEC,ECSUPEC及びSRSUPECのデータに対して,群(実験群・統制群)×測定時期(Pre−test・Post−test)の混合計画の二要因分散分析を行い,群と測定時期における交互作用が認められた場合には,Bonferroni法による多重比較検定を行った.

    二要因分散分析及びBonferroni法による多重比較検定を行った結果,実験群の測定時期に有意な変化が認められた.具体的には,実験群においては,ECSUPECの下位尺度である「ダイエット効果(Diet Effect:DE),対人関係促進(Promotion for Interpersonal Relationship:PIR)」,「気分の向上(Improvement of Feelings:IF),「生活習慣改善(Lifestyle Improvement:LI)」及びSSUPECの下位尺度である「対人感情理解(Comprehension of Interpersonal Relationship:CIR)」,「対人共感能力(Attitude of Interpersonal Sympathy:AIS)」,「自己主張能力(Self−Assertion Ability:SAA)」は,授業開始段階よりも授業終了段階において,有意に低下する結果が示された.一方,SRSUPECの下位尺度である「情動的反応(Emotional Stress Response:ESR),「心理的反応(Psychological Stress Response:PSR),「行動的反応(Behavioral Stress Response:BSR)は,授業終了段階において,授業開始段階よりも有意に上昇する結果が示された.

    本研究の結果より,研究Ⅰにおいては,SSUPECは,体育授業でのソーシャル・スキルの測定指標としての有効性が確認された.しかし,研究Ⅱにおいては,仮説としていた,ポートフォリオ学習システムを導入したスポーツ実技の授業参加者の「ソーシャル・スキル」,「体育授業の効用認知」及び「ストレス反応」に対する改善効果は支持されなかった.この結果は,多くの因子測定による限界であった可能性がある.今後は,ポートフォリオ学習システムによる「ソーシャル・スキル」,「効用認知」,「ストレス反応」へのメカニズムについて探索的に検討を行う必要がある.

  • 西田 順一
    2012 年 9 巻 p. 43-55
    発行日: 2012年
    公開日: 2018/01/09
    ジャーナル オープンアクセス

    本研究では、DBSSUを改訂することを第一の目的とし、加えて水泳や水中運動の恩恵と負担および水泳・水中運動実施の主観的な環境の認知の測定を行い、それらの行動意図への影響を検討することを第二の目的とした。大学生254名を対象とした予備調査から水泳・水中運動の恩恵については7カテゴリが得られ、負担については8カテゴリが得られ、そのうち行動変容段階に応じて差異が確認された計6カテゴリ(恩恵:「全身運動」「健康・体力づくり」「ストレス解消」、負担:「面倒さ」「疲労感」「所要時間」)を採用し、それらを基に尺度項目が作成された。次いで、大学生580名を対象とした本調査のデータについて項目分析および探索的因子分析(最尤法・プロマックス回転)を行なった結果、9項目3因子構造が確認され、「改訂版水泳・水中運動の意思決定バランス尺度-大学生版(DBSSU−R)」と命名した。α係数および再テスト法により信頼性が確認された。また、行動変容段階における下位尺度得点から構成概念妥当性を確認した。水泳・水中運動の意思決定バランスおよび主観的な環境の認知が水泳・水中運動の行動意図に及ぼす影響を重回帰分析により検討したところ、行動変容ステージにて影響の差異が確認された。すなわち、‘初期ステージ’ では安価に利用できるプール施設および疲労蓄積に関する負担が行動意図に影響を及ぼしたのに対し、‘後期ステージ’ では衛生的できれいなプール施設が行動意図に影響を及ぼした。これらを踏まえ、大学体育における今後の水泳・水中運動の授業での介入の視点について詳細に述べられた。最後に本研究の制限と今後の課題について議論された。

  • 橋本 公雄
    2012 年 9 巻 p. 57-67
    発行日: 2012年
    公開日: 2018/01/09
    ジャーナル オープンアクセス

    身体活動や運動のメンタルヘルス効果に関する研究は数多くなされているが,そのメカニズムに関する研究は少なく,未だ運動指導の現場に適用できるようなメンタルヘルスを改善・向上させる有用な実行モデルは構築されていない.本研究では,橋本・堀田・山﨑・甲木・行實(2009)が提示した心理社会的要因を媒介変数とする「運動に伴うメンタルヘルス効果モデル」の検証を試み,体育実技授業への適用の可能性を探ることを目的とした.大学1・3・4年生男女432名(男子:318名,女子:114名)を対象に身体活動,社会的スキル,メンタルヘルスを含む調査票を2009年と2010年に2回実施した.横断的データを用いて,仮説モデルの検証を階層的重回帰分析と共分散構造分析を用いて行った.その結果,心理社会的要因としての社会的スキルは運動とメンタルヘルス(ストレス度と生きがい度)を繋ぐ媒介変数であることが明らかにされ,体育実技授業におけるモデルの適用の可能性と社会的スキルの向上に向けた介入法が論じられた.

  • ―教育実践における目標・教授・学習に着目して―
    松田 裕雄, 吉岡 利貢, 河村 レイ子, 桐生 習作, 金谷 麻理子, 武田 丈太郎, 門野 洋介
    2012 年 9 巻 p. 69-92
    発行日: 2012年
    公開日: 2018/01/09
    ジャーナル オープンアクセス

    本研究は、大学体育の教育実践の現場に着目し、教育目標(伝授すべきこと)、教員の教授(伝授しようとしたこと)、学生の学習(伝授されたこと)の間にどのような整合・不整合性が認められるのかを調査し、今後の大学体育の価値向上に向けた方向性を示唆することを目的とした。

    研究方法はT大学において共通科目「体育」を受講した卒業生および担当した教員を調査対象とし、アンケート調査を行った。内訳は、卒業生386名、教員12名である。アンケート調査は「健康・安全・体力の保持増進と向上」、「人間・人間関係の形成」、「スポーツの普及と振興」という3つの観点(大学体育三大意義)について実施した。評価尺度は、6(とても思う)から1(まったく思わない)の6段階とし、これを卒業生の場合は「学習得点」、教員の場合は「教授得点」とした。

    大学体育三大意義におけるそれぞれの分野の「教授得点」と「学習得点」を比較したところ、全ての観点において、教授得点と学習得点の間に有意な差が認められた。また、「人間・人間関係の形成」において、教授得点が最も高い値を示したのに対して、学習得点は最も低い値であった。

    因子分析の結果より、T大学における大学体育活動の更なる充実と価値向上に向けた課題として、以下の2つが示唆された。

    (1)大学体育三大意義を踏まえた教育実践の場を目的整合的に再設計し、教員の教授意識に組織としての一定の合意性及び一貫性を図っていくこと。

    (2)三大意義と教育目標を具現化し、整合性の高い学習成果を図っていく為の具体的な教授方法について研究を図っていくこと。

    大学体育界全体が大学体育の価値向上に向けて取り組むべき課題としては、原点である大学体育三大意義を具現化していく教授法を日々追究していくことで、高い学習成果を発揮し教養教育に欠かせない存在へと体育の教育的価値を高めていくことが重要であることが示唆された。

  • 山津 幸司, 井上 伸一, 栗原 淳
    2012 年 9 巻 p. 93-100
    発行日: 2012年
    公開日: 2018/01/09
    ジャーナル オープンアクセス

    【目的】本研究の目的は、大学生の身体活動や不活動時間が6ヵ月間のメンタルヘルス不良の発現率を低下させるかを検証することである。

    【方法】研究対象(559名)は2010年5月(ベースラインデータ)と2010年10月(追跡データ)にInternational Physical Activity Questionnaire短縮版(村瀬ら,2002)、運動セルフエフィカシー尺度(岡,2003)、およびGeneral Health Questionnaire 12項目版(本田ら,2001)に回答した。

    【結果】559名の大学生のうち、ベースライン時にメンタルヘルス不良が認められたのは27.0%(男性21.2%、女性33.3%)であった。ロジスティック回帰分析の結果から、交絡因子の調整後も、男子学生の高強度身体活動は将来のメンタルヘルス不良が発現する危険性を低下させていた(オッズ比0.487、95%信頼区間0.247-0.962)。また、運動セルフエフィカシーも将来のメンタルヘルス不良が発現する危険性を低下されることが認められた(オッズ比0.510、95%信頼区間0.261-0.996)。しかし、女子学生ではそれらの関係は認められなかった。総身体活動量と不活動時間には有意な予測効果は男女共に認められなかった。

    【結論】以上の結果から、高強度身体活動や運動セルフエフィカシーは大学生の将来のメンタルヘルス不良の発現を低下させることが示された。

研究資料
  • -学部の教育目標を達成するために-
    大槻 毅, 荒井 宏和, 小粥 智浩, 稲垣 裕美, 小峯 力, 上野 裕一
    2012 年 9 巻 p. 101-107
    発行日: 2012年
    公開日: 2018/01/09
    ジャーナル オープンアクセス

    本調査の目的は、海浜実習の教育効果を検討することである。調査対象は、R大学S学部の海浜実習とし、同学部の教育目標および同学部における海浜実習の教育目標に沿って20項目のアンケートを作成し、受講生247人を対象に、実習の参加前、終了直後、終了4ヶ月後にアンケート調査を実施した。その結果、海浜実習には教育効果があり、R大学S学部の海浜実習では、自ら考えて行動し、それを省みる力の向上に期待できることが示唆された。また、ヒトを含めた動植物の生命を尊ぶ態度や、それを後進に伝えようとする意欲の育成が期待できることも示唆された。これらの効果の中で、通常の学生生活や日常生活に関連づけやすいものについては、一定の継続効果が期待できるが、今後は、海浜実習の終了後、継続的・発展的な学生の成長を支援する態勢づくりについても検討する必要があると考えられた。

  • 小林 勝法, 木内 敦詞, 嵯峨 寿, 奈良 雅之
    2012 年 9 巻 p. 109-116
    発行日: 2012年
    公開日: 2018/01/09
    ジャーナル オープンアクセス

    大学体育の充実に必要なプレFD(大学教員準備教育)と分野別FDを開発するための基礎的資料を収集することを目的として、全国の体育学専攻大学院のうち、収容定員数が30人以上の研究科あるいは専攻である13大学大学院15研究科・専攻に在籍する大学院生を対象にして、2010年12月中旬から2011年2月中旬に郵送によるアンケート調査を行った。回答は10大学大学院12研究科・専攻からあり、研究生などを除くと合計517名である。集計・分析の結果、以下のような知見が得られた。

    ①学部教育段階で体育以外を専攻した者が修士課程で21.8%、博士課程で23.2%に達している。そして、彼らは体育系卒業者よりも大学体育教員としての教育に対する意欲が統計的に有意に低い。

    ②保健体育の教員免許を取得していない者が修士課程で42.4%、博士課程で39.7%に達している。そして、彼らは教員免許取得者よりも大学体育教員としての教育に対する意欲が統計的に有意に低い。

    ③全国大学体育連合の「名前を聞いたことがある」は修士課程で49.3%、博士課程で48.5%に留まっている。「研究会参加」や「機関誌閲覧」「メールニュース受信」などはいずれも低い。

    以上のことから、大学院生を対象としたプレFDを行う際には、学部教育での専攻や教員免許の有無を考慮する必要があり、それらが欠ける場合には、教職教養や体育科教育に関する内容が分野別FDとして必要となっていることが示唆された。

  • 平井 博志, 木内 敦詞, 中村 友浩, 浦井 良太郎
    2012 年 9 巻 p. 117-125
    発行日: 2012年
    公開日: 2018/01/09
    ジャーナル オープンアクセス

    学校における課外活動は人間的成長を促す場と考えられているものの,それを裏付けるデータはこれまで十分に蓄積されていない.本研究の目的は,大学期における課外活動の種類とライフスキル(life skills:以下LS)の関係を明らかにすることであった.近畿圏にある3大学(文系・理系・医学系)の男女学生2009名を対象に,島本・石井(2006)の日常生活スキル評価尺度(大学生版)による調査を行った.LSを「効果的に日常生活を過ごすために必要な学習された行動や内面的な心の働き」と定義するこの尺度は,対人スキル(親和性,リーダーシップ,感受性,対人マナー)と個人的スキル(計画性,情報要約力,自尊心,前向きな思考)に大別される8下位尺度から構成される.文化会系クラブ・サークル所属者(以下,文化会所属者)は研究系・芸術系・ボランティアから,そして体育会系クラブ・サークル所属者(以下,体育会所属者)は個人系・対人系・集団系・ダンスから構成された.分散分析の結果,以下のことが明らかとなった.

    1)4年生は総合LS・対人LS・個人的LSのすべてで他の学年よりも有意に高い得点を,女性は対人LSでのみ男性よりも有意に高い得点を示した.

    2)体育会所属者(とりわけ,集団系スポーツ)は,総合LS・対人LS・個人的LSのすべてにおいて,無所属者および文化会所属者よりも有意に高い得点を示した.

    3)文化会所属者は,個人的LSの「計画性」で体育会所属者および無所属者よりも有意に低い得点を示す一方,対人LSの「対人マナー」で無所属者よりも有意に高い得点を体育会所属者とともに示した.

    4)ボランティアサークル所属者は他の文化会所属者よりも,そしてダンスサークル所属者は他の体育会所属者よりも,全般に高いLS得点を示す傾向であった.

    以上の結果は,大学期に所属する課外活動団体の種類とライフスキルの関係をある1時点の横断的調査から検討したものであり,課外活動とライフスキルの因果関係を明らかにしたわけではない.ライフスキルの2時点以上の縦断的な調査が必要であると同時に,その変化の背景となるスポーツ活動に内在する具体的な経験を押さえること,さらには高校までの活動経験も考慮したうえで,課外活動とライフスキルの因果関係を検討していくことが望まれる.

奥付、裏表紙など
feedback
Top