2021 年 4 巻 1 号 p. 12-25
三式簿記論の基礎理論として,さらには新たな会計理論として期待された井尻雄士教授のMomentum Accountingは,簿記研究や会計研究として新たな分野を確立するような研究の蓄積・発展がなされていないのが現状である。本稿は,1990年代以降にMomentum Accounting研究が蓄積・発展しなかった理由として,井尻理論の史的展開におけるMomentum概念の変化に研究者たちが気づいておらず,本稿で指摘する2つのMomentum概念(Wealth-based MomentumとIncome-based Momentum)が日本語圏と英語圏とで正確に伝わっていない可能性を指摘したい。そしてその背後には,数学的な正しさ,物理学的なもっともらしさ,会計学的な新しさの全てを満たそうとした井尻教授の苦悩があったと推察される。本稿では,Momentum Accounting研究の史的展開をふまえ,その致命的な問題を克服する将来の発展方向として,三式簿記論とMomentum Accountingの新たな世界観を議論・提示する。