植物研究雑誌
Online ISSN : 2436-6730
Print ISSN : 0022-2062
ISSN-L : 0022-2062
ベトナム南部における食用カンナの資源植物学的研究
田中伸幸
著者情報
ジャーナル フリー

1998 年 73 巻 6 号 p. 319-324

詳細
抄録

カンナ科の数種は古くはアンデス地域のインカ族がその根茎を澱粉食として利用していた歴史をもつ.現在では氾世界的に熱帯,亜熱帯地域に伝播し,熱帯アジア地域でも自給的あるいは商業的に利用が見られるが,その分類,特性に関する調査研究は殆どなく,その必要性が指摘されていた.筆者はシンガポール大学植物学科に在籍中,東南アジアにおける食用カンナの利用,分類の調査を行った.本稿では,そのうち,食用カンナの利用の割合の高かったベトナムにおいて南部を中心として行った簡単な資源植物学的研究の結果を報告する.ベトナム南部では調査地の全てで1種の食用カンナが利用されており,根茎を茹でて食用に供しているほか,澱粉にしてそれを湯に溶き,葛湯様に飲用する.また,澱粉を麺に加工して市場で販売するという商業的な利用がみられた.この食用カンナは従来あてられていたCanna edulis Ker Gawl. ではなく,むしろC. discolor Lind. に一致した.C. discolorC. indica L. とは異なり,きわめて根茎が腕状に肥大する有用種であった.将来的な熱帯地域での澱粉源植物としての食用カンナの開発研究のためにはカンナ科の分類体系の確立が不可欠であり,熱帯アメリカ地域でのさらなる遺伝子資源探索が必要である.

著者関連情報
© 1998 植物研究雑誌編集委員会
前の記事 次の記事
feedback
Top