植物研究雑誌
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日本と韓国産カラタチゴケ属(カラタチゴケ科)の3新種
柏谷 博之 文 光喜韓 定殷竹下 俊治
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2023 年 98 巻 6 号 p. 304-318

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抄録

日本と韓国からRamalina congesta Kashiw., K.H.Moon & J.E.Han, R. disciformis Kashiw., K.H.Moon & J.E.Han,R. tumescens Kashiw., K.H.Moon & J.E.Hanの3新種を記載した. 1) Ramalina congesta(ハイカラタチゴケ,新称)は海岸から海抜1000 m付近の岩上に生育する.地衣体は基物を這うように伸び,裏面のあちこちで基物にゆるく付着して高さ約7 mm,径1–2 cmのクッション状となる.枝は不規則に分かれ,中空で少数の穿孔を有する.枝の先端は崩壊して裂芽化し,後に粒状の粉芽となる.髄層の菌糸は連続し,皮層の内壁に密着する.地衣成分はエベルン酸,オブツザート酸,ウスニン酸である.これまでに確認された産地は日本と韓国だけである.本種はイワカラタチゴケモドキR. sphaerophora,クロカワカラタチゴケR. kurokawae,イワカラタチゴケ R. yasudae などに似ているが,イワカラタチゴケやイワカラタチゴケモドキとは枝が中空であることで,クロカワカラタチゴケとは枝から直角にでる小枝を欠き,髄層の菌糸が連続することで区別できる. 2) Ramalina disciformis(エンザカラタチゴケ,新称)は岩上に生じる.地衣体は多くの小枝が密集して高さ約 0.5 cm,径約1.5 cmの円盤状となる.地衣体中央部の枝は小さく,巾0.2 mm内外,長さ約2 mm,密に集合し先端は粉芽化する.周辺部の枝は長さ3–5 mmで先端に唇状の粉芽塊をつける.子器は未見.地衣成分はエベルン酸,オブツザート酸,ウスニン酸である.本種はこれまでに北海道中部と東部の4カ所で生育が確認されている希種である.岩上に多産するイワカラタチゴケも唇状の粉芽塊を持つが,地衣体は小さい基部から数本の枝が出る典型的な樹枝状となるので容易に区別できる. 3) Ramalina tumescens(トゲカラタチゴケ ,新称)は海岸付近の岩壁に生育する.地衣体は樹枝状で高さ1–3(–6) cm,狭い基部から多くの枝がでる.枝は中空で膨らみ, 先端は先細りとなる.枝の表面は滑らかで円柱状で先がとがった小枝(径0.2 mm,長さ5–15 mm)を多数生じる.穿孔は小さく類円形で枝全体に散在する.髄層の菌糸は連続する.胞子は紡錘形,無色,2室,10–12 × 4–5 µm.地衣成分はエベルン酸,オブツザート酸,ウスニン酸である.本種は海岸性のR. cinereovirens(ハイイロカラタチゴケ,新称)やツヅレカラタゴケモドキR. pertusa に地衣体の形状が似ているが,後者は何れも枝に先細りの小枝を生じないので容易に区別できる. これら3新種についてITS,IGS,mtSSU の塩基配列を用いて系統解析を行った結果,いずれも独立したクレードを形成し,近縁種とは明確に区別された.

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