背景 : トラネキサム酸投与が外傷患者の死亡率を低下させることがランダム化試験で示されたが, 多くの批判もなされている. 本研究では, 日本の実際の外傷診療における受傷後3時間以内のトラネキサム酸の投与が, 生死および輸血量に及ぼす効果を検証した. 対象と方法 : Japanese Observational Study for Coagulation and Thrombolysis in Early Trauma (以下J–OCTET) 研究で収集された全外傷患者を対象とし, 傾向スコアマッチ法を用いてトラネキサム酸投与例と非投与例の背景因子を調整した2群を抽出した. 28日死亡率と輸血量を群間比較した. 結果 : J–OCTETに登録された796例のうち, 受傷後3時間以内のトラネキサム酸投与群と非投与群のそれぞれ242例をマッチさせた. トラネキサム酸投与は28日死亡率を減少させたが (12.7% versus 20.6%, 平均差–7.9%, 95%信頼区間 [–14.2%, –1.6%]), 24時間赤血球平均輸血量 (4.2単位 versus 3.8単位, 平均差 +0.4, 95%信頼区間 [–1.1, +2.1]) と24時間新鮮凍結血漿平均輸血量 (4.3単位 versus 3.4単位, 平均差 +0.9, 95%信頼区間 [–0.7, +2.6]) には差がなかった. 結論 : 我が国で行われている重症外傷診療においても, CRASH–2試験により示された受傷後3時間以内のトラネキサム酸投与により, 死亡率減少効果が期待できることが示された.