1998 年 38 巻 2 号 p. 50-57
本研究は,田中(1988)により提案された,ある地区の蝶類群集の環境階級存在比(ER:existence ratio of environmental stage)を求めることにより,その地区の自然環境評価を行う方法(ER法)が高等学校総合理科や生物IIでの課題研究「自然環境についての調査」の教材として有効であるかを,検討するために行われた.
自然環境評価を行うための調査は,都市的環境にある東京都渋谷区笹塚(以下笹塚と略記),都市郊外の住宅地に位置する同小金井市東京学芸大学構内(以下小金井と略記),自然環境が比較的残されている同八王子市長沼(以下長沼と略記)の3地区を選び,1994年および1995年の春から夏にかけて,各地区で2回または3回実施された.1回の調査に要した時間は30~65分であった.その結果から,笹塚と小金井はERに基づいた自然環境の類別(田中 1988)の農村段階に相当し,長沼は原始段階に相当すると評価された.この評価は小金井と長沼については,それぞれの地区の景観から受ける印象にほぼ対応していた.
本研究により,ER法は授業時間内での実施が可能であり,調査回数をそれほど多くしなくても,該当地域の自然環境を評価できる方法であることが明らかとなった.さらに,ER法の利点として,昆虫の中では分類が比較的容易な蝶類を指標としていること,調査路が比較的自由に設定できることなどがあげられるので,高校生物教育への導入が可能であると考えられる.