本研究は,福島第一原子力発電所事故後の子どもの健康不安と母親の精神的健康に着目したものである。発災後約3年時点において,福島県内で比較的高い放射線量が測定された内陸地域で乳幼児を育てる母親の精神的健康について,子どもの健康不安,放射線問題をめぐる認識や対応の周囲との相違,および放射線問題についての自律的判断を主要な関連要因として,実証的検討を行うことを目的とした。調査時期は2013年12月から2014年1月であり,福島県中通り地方A市内の3–6歳児をもつ母親を対象として自記式質問紙調査を実施した。有効回答者は346名であった。交互作用項を投入した階層的重回帰分析の結果,母親の抑うつに対して,周囲との相違と自律的判断の交互作用項が有意であった。単純傾斜分析から,自律的判断高低のいずれの場合においても,周囲との相違は抑うつへの有意な正の影響を示した。ただし,自律的判断が高い場合の傾きはより小さかった。さらに,発災時家屋被害が抑うつに有意な正の影響を示し,家族や親族によるサポートが有意な負の影響を示した。子どもの健康不安は抑うつに対する正の影響を示したが,有意傾向であった。本研究の結果から,事故後3年段階において子どもの健康不安は母親の精神的健康のリスク要因として留意する必要があること,および自律的判断は周囲との相違と抑うつの関連に対する緩衝的な調整効果をもつことが明らかとなった。