発達心理学研究
Online ISSN : 2187-9346
Print ISSN : 0915-9029
33 巻, 2 号
選択された号の論文の4件中1~4を表示しています
原著
  • 大久保 圭介, 唐 音啓, 遠藤 利彦, 野澤 祥子
    2022 年 33 巻 2 号 p. 55-64
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/06/20
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,妊娠期における夫婦間の話し合いが,育児期において父親が知覚する母親からのゲートキーピング・ゲートオープニング行動に及ぼす縦断的な関連を明らかにすることであった。分析対象者は,合計1357組の夫婦ペアであり,子どもが0歳と3歳の2時点で得られたデータの分析を行った。妊娠中の話し合い度は,母親が,子どもが0歳時点で妊娠期のことを回顧的に評定したものを,ゲートキーピング・ゲートオープニングは,父親が,子どもが3歳時点で評定したものを分析に使用した。結果として,妊娠期の話し合い度とゲートオープニングの関連はいずれの就業形態の組み合わせの夫婦でも有意であったのに対して,ゲートキーピングとの関連は夫婦ともに正社員の組み合わせにおいてのみ有意であった。妊娠期の話し合い度合いによるゲートキーピング・ゲートオープニングの分散説明率は最大で10%ほどであった。本研究の結果からは,特に出産後にフルタイムで働くことを予定している夫婦にとっては,出産前に夫婦で話し合っておくことが重要であることが示唆された。

  • 溝江 唯, 大伴 潔
    2022 年 33 巻 2 号 p. 65-75
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/06/20
    ジャーナル フリー

    本研究は,知的発達および言語発達に遅れのない自閉スペクトラム症(ASD)幼児10名と定型発達(TD)幼児10名を対象とし,象徴遊び行動の生起頻度とレパートリー数,「食事」,「移動」といった遊びのテーマの生起頻度とレパートリー数,象徴遊び行動の連鎖数に焦点を当て両群の発達過程の違いを明らかにするために縦断的に比較を行った。生活月齢30か月~42か月の時点より約1年間に渡り6か月程度の間隔で3回データ収集を行った。月齢を共変量とした一般線形混合モデルにより群間の比較を行ったところ,象徴遊び行動のレパートリー数,象徴遊び行動の連鎖数において,群と月齢の交互作用が認められた。下位検定の結果,ASD群は月齢が上昇しても象徴遊び行動のレパートリー数と連鎖数に変化が認められなかった一方で,TD群においては,これらの指標値に増加が認められた。知的発達・言語発達ともに遅れのないASD幼児であっても象徴遊びのレパートリー数や連鎖においてTD幼児と発達過程が異なることが示された。

  • 佐々木 美恵, 小林 紀代, 市川 陽子, 安藤 智子, 香山 雪彦
    2022 年 33 巻 2 号 p. 76-88
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/06/20
    ジャーナル フリー

    本研究は,福島第一原子力発電所事故後の子どもの健康不安と母親の精神的健康に着目したものである。発災後約3年時点において,福島県内で比較的高い放射線量が測定された内陸地域で乳幼児を育てる母親の精神的健康について,子どもの健康不安,放射線問題をめぐる認識や対応の周囲との相違,および放射線問題についての自律的判断を主要な関連要因として,実証的検討を行うことを目的とした。調査時期は2013年12月から2014年1月であり,福島県中通り地方A市内の3–6歳児をもつ母親を対象として自記式質問紙調査を実施した。有効回答者は346名であった。交互作用項を投入した階層的重回帰分析の結果,母親の抑うつに対して,周囲との相違と自律的判断の交互作用項が有意であった。単純傾斜分析から,自律的判断高低のいずれの場合においても,周囲との相違は抑うつへの有意な正の影響を示した。ただし,自律的判断が高い場合の傾きはより小さかった。さらに,発災時家屋被害が抑うつに有意な正の影響を示し,家族や親族によるサポートが有意な負の影響を示した。子どもの健康不安は抑うつに対する正の影響を示したが,有意傾向であった。本研究の結果から,事故後3年段階において子どもの健康不安は母親の精神的健康のリスク要因として留意する必要があること,および自律的判断は周囲との相違と抑うつの関連に対する緩衝的な調整効果をもつことが明らかとなった。

展望
  • 石川 惠太, 東 菜摘子, 大賀 真伊, 滝沢 龍
    2022 年 33 巻 2 号 p. 89-103
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/06/20
    ジャーナル フリー

    一般的に被虐待経験と家族機能不全から構成される小児期逆境体験(Adverse Childhood Experiences:ACEs)を経験した個人は,精神病理のリスクが高まることが多くの研究で実証されているが,次世代の精神病理に与える影響に関する研究は少ない。本レビュー論文は,(1)親のACEsと子どもの精神病理の関係および,(2)両者を関連付ける妊娠中・出産後における媒介変数・調整変数の役割を,被虐待経験のみに焦点を当てた研究との異同を踏まえて検討した。6つの検索エンジンを利用し,16本の研究が抽出された。(1)親のACEsと子どもの精神病理との関連では,問題行動・外在化問題で一貫して有意な関連を示したが,内在化問題では一貫しない結果が確認された。親のACEsと被虐待経験に関する研究を比較した結果,親のACEsと子どもの精神病理との関係において大きな差異は確認されなかった。(2)媒介変数・調整変数については,母親の妊娠中の生物学的要因・心理社会的要因や,出産後の心理的問題,養育の媒介効果が主に確認された。これは,被虐待経験の研究結果と同じ傾向を示し,逆境が被虐待経験であれACEsであれ,心理社会的な変数は頑健な媒介効果を示すことが示唆された。今後の展望として,(1)多重被害の観点からより包括的な逆境を測定すること,(2)妊娠中の要因を検討することを挙げることができる。

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