都市林の適切な保全のあり方を検証するために,市民により保全管理が行われている都市林において,林分構造や植物種構成の経年変化を分析した。調査は成り立ちや管理状況の異なる既存の壮齢雑木林および幼齢の造成林に方形区を計3か所設置し,毎木調査及び全植物種の記録を約10年間毎年行った。壮齢雑木林では,管理が最小限で林床が暗い林分においては,下層の常緑樹が徐々に増加していたが,林分構造は比較的安定していた。この部分では非森林生の種が少なく,栽培起源の常緑木本が多かった。同じく,明るく維持している林分においては,下層に夏緑樹の侵入が多く,継続的な管理によって現状の林分構造が動的平衡状態で維持されていた。ここでは非森林生の種も多くみられた。幼齢造成林では,調査開始年(4年生)の林分では林冠高は低くうっ閉していなかったが,調査最終年ではうっ閉した高木層を形成した。幼齢造成林の種構成は,当初は森林生の種が少なく外来種が多かったが,年々壮齢雑木林の種構成に近づいていった。幼齢造成林は,植栽導入した植物は夏緑樹のみであったが,森林生の種のソースが隣接しているため,自然侵入により既存樹林と同様の多様性をもった林分が形成されつつあった。調査した森林全体では,継続的管理により非森林生の種が多い里山的多様性の高い林分,暗いが最小限の管理ですんでいる林分を,それぞれ場所ごとのニーズに合わせて維持することで,都市林の植物多様性が維持されていた。