森林立地
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64 巻, 1 号
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論文
  • 島田 和則
    原稿種別: 論文
    2022 年 64 巻 1 号 p. 1-11
    発行日: 2022/06/25
    公開日: 2022/07/07
    ジャーナル フリー

    都市林の適切な保全のあり方を検証するために,市民により保全管理が行われている都市林において,林分構造や植物種構成の経年変化を分析した。調査は成り立ちや管理状況の異なる既存の壮齢雑木林および幼齢の造成林に方形区を計3か所設置し,毎木調査及び全植物種の記録を約10年間毎年行った。壮齢雑木林では,管理が最小限で林床が暗い林分においては,下層の常緑樹が徐々に増加していたが,林分構造は比較的安定していた。この部分では非森林生の種が少なく,栽培起源の常緑木本が多かった。同じく,明るく維持している林分においては,下層に夏緑樹の侵入が多く,継続的な管理によって現状の林分構造が動的平衡状態で維持されていた。ここでは非森林生の種も多くみられた。幼齢造成林では,調査開始年(4年生)の林分では林冠高は低くうっ閉していなかったが,調査最終年ではうっ閉した高木層を形成した。幼齢造成林の種構成は,当初は森林生の種が少なく外来種が多かったが,年々壮齢雑木林の種構成に近づいていった。幼齢造成林は,植栽導入した植物は夏緑樹のみであったが,森林生の種のソースが隣接しているため,自然侵入により既存樹林と同様の多様性をもった林分が形成されつつあった。調査した森林全体では,継続的管理により非森林生の種が多い里山的多様性の高い林分,暗いが最小限の管理ですんでいる林分を,それぞれ場所ごとのニーズに合わせて維持することで,都市林の植物多様性が維持されていた。

短報
  • 山岸 極, 伊藤 哲, 平田 令子
    原稿種別: 短報
    2022 年 64 巻 1 号 p. 13-21
    発行日: 2022/06/25
    公開日: 2022/07/07
    ジャーナル フリー

    間伐時の下層植生の刈り払いが林床植生の発達に及ぼす長期的な影響を明らかにすることを目的として,同一ヒノキ人工林内に間伐と低木層を含む下層の刈り払いを組み合わせた4つの処理区を設定し,処理後3年目と8年目の林床植生の被度,種数および種多様度指数を処理間で比較した。その結果,林冠木の除去と下層刈り払いを組み合わせた通常の間伐処理区では,調査期間中の被度,種数,種多様度が他の処理区と比較して高かった。下層刈り払いのみの処理でも植生の発達が認められ,処理8年後の被度および種数は間伐のみの処理区よりも高くなった。一方,低木層を保残し間伐のみを行った処理区では調査期間中の被度や種多様度の変化は認められず,被度は調査期間を通して無処理区と差がなかった。これらの結果から,間伐時の林冠木の伐採だけでは長期間の林床植生の発達は期待できないこと,および長期的な林床植生の繁茂や種多様性の増加を目的とする場合は,間伐時の下層植生の刈り払いは効果的であることが示唆された。

  • 酒井 敦, 大谷 達也, 米田 令仁
    原稿種別: 短報
    2022 年 64 巻 1 号 p. 23-29
    発行日: 2022/06/25
    公開日: 2022/07/07
    ジャーナル フリー

    ネット防護柵を設置したスギ・ヒノキ再造林地において防護柵内に侵入したニホンジカによる食害の実態を明らかにするため,植栽木の被害調査をおこなった。スギ植栽地18か所,ヒノキ植栽地27か所で幅2 m長さ50 mの調査区(100 m2)を設置し,植栽木の本数,樹高および被害状況を記録した。スギは調査本数の23.3%に被害がある一方,ヒノキは44.6%に被害があり,特に樹皮剥ぎ被害が多かった。健全木が100 m2あたり15本未満の調査地は,スギで22.2%(4カ所)である一方,ヒノキは55.6%(15カ所)で,そのような場所は平均樹高も低く経済的に成林できない可能性があると考えられた。造林地の傾斜角が急になるほど,またシカ密度が高いほど健全木が少なくなる傾向が認められ,そうした場所では防護柵の設置・保守に特に気を付ける必要がある。

  • 丹下 健, 阿部 有希子
    原稿種別: 短報
    2022 年 64 巻 1 号 p. 31-37
    発行日: 2022/06/25
    公開日: 2022/07/07
    ジャーナル フリー

    常温での暗所保管によって成長期間のスギコンテナ苗の伸長成長を止めることができるが,光合成ができない暗所で保管すると苗の活力の指標の一つである細根伸長能力が低下する。本研究では,暗所保管したスギコンテナ苗の細根伸長能力の回復に必要な全天条件下での育成期間を明らかにすることを目的とした。2021年夏に,4週間の暗所保管を行った後に0週間,1週間,2週間,4週間の全天条件下での生育期間を設け,暗所保管を行わなかった供試苗(対照区)も合わせて全ての供試苗を8月上旬の同じ日に植栽した。植栽1週間後に掘り取り土壌中に伸長した細根乾重量(伸長細根乾重量)を測定した。暗所保管後に全天条件下で育成しなかった供試苗では,対照区に比べて伸長細根乾重量が有意に少なかった。一方,全天条件下で1週間以上育成した供試苗の伸長細根乾重量は,対照区と有意差がなかった。暗所保管後に供試苗を1週間以上,全天条件下で生育させることによって暗所保管による細根伸長能力の低下を概ね回復できることが示唆された。

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