宮崎県南部の私有林において発生した盗伐を対象に,環境犯罪学の手法の一つである日常活動理論において犯罪が発生する三つの条件とされる「動機付けされた犯罪者」,「好適な対象」,および「監視体制の欠如」の実態把握を通じ,盗伐発生のメカニズムを検討した。その結果,小規模山林所有構造と相続登記の不徹底とによる立木売買交渉の高い取引費用が,山林仲介業者による伐採届偽造の背景要因となっていたことが示唆された。また,木材の価格上昇と需要増加が認められ,木材が好適な対象となったことが確認できた。そして,監視体制の欠如についても,山林所有者の低い所有意識と不十分な監視,および伐採届の監督機能の不足によって示された。また,山林仲介業者と素材生産業者との分業化に伴い,山林所有者に対する責任の所在が不明瞭になっていることが認められた。これらのことから,山林所有者および行政の監視体制の強化,および相続登記の徹底による立木売買の取引費用の低減が盗伐の抑制に有効であると考えられた。