日本森林学会誌
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101 巻, 5 号
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論文
  • 小川 高広
    2019 年 101 巻 5 号 p. 193-200
    発行日: 2019/10/01
    公開日: 2019/12/01
    ジャーナル フリー

    林業大学校学生の教育・カリキュラム満足度に関わる要因を明らかにするため,林業大学校4校(静岡県立農林大学校,長野県林業大学校,京都府立林業大学校,島根県立農林大学校)の卒業予定者に質問紙調査を行った。入学を決める際に重要だと考えたこと,入学後の経験,学生生活に対する考え,教育を受けて向上した知識・スキルの四つに焦点を当て,教育・カリキュラムに満足していた学生と満足していなかった学生の特徴をみた。学生全体では,入学に際し林業知識の獲得や技術習得を重視していたこと,教職員の親身さを実感していたこと,林業作業時の安全意識や作業技術等の知識・スキルが向上したと考えていたこと,等が明らかとなった。これらの要因は,学生間において統計的に有意な差はみられなかった。他方,入学決定の際に寮の存在を重視していたか否か,放課後にクラスメートとの学習を経験していたか否か,林業経営の知識・スキルが向上したと考えたか否か,等の点で統計的に有意な差がみられた。以上より,寮の存在,放課後における学生同士の学習機会や林業経営に関する学習の機会とその能力向上が学生満足度に関わる要因であることが明らかとなった。

  • 平田 令子, 伊藤 哲, 古里 和輝, 長倉 良守
    2019 年 101 巻 5 号 p. 201-206
    発行日: 2019/10/01
    公開日: 2019/12/01
    ジャーナル フリー
    電子付録

    スギの挿し木苗における生分解性ペーパーポットの利用可能性を明らかにすることを目的として,ペーパーポットで育成されたスギ挿し木苗の植栽後2年間の成長と根系発達をコンテナ苗と比較した。その結果,2年間の地上部成長および発根量には苗種間で差はなく,植栽後ペーパーポット苗はコンテナ苗と同等の成長に期待できることが示された。植栽2年目におけるペーパーポット容器の分解率は2割程度であり,容器のほとんどが残っていた。しかし,容器を着けたままの植栽が根の伸長を阻害することなく,ペーパーポット容器を突き破って伸長する根が観察された。また,根鉢外へ伸長した根の本数や根長および根元径についてもコンテナ苗と同等かそれ以上であった。以上の結果から,植栽におけるスギ挿し木ペーパーポット苗の有効性が示された。

  • ―宮崎県南部における事例―
    御田 成顕, 大地 俊介, 桑畑 弘幸, 尾分 達也, 藤掛 一郎
    2019 年 101 巻 5 号 p. 207-213
    発行日: 2019/10/01
    公開日: 2019/12/01
    ジャーナル フリー

    宮崎県南部の私有林において発生した盗伐を対象に,環境犯罪学の手法の一つである日常活動理論において犯罪が発生する三つの条件とされる「動機付けされた犯罪者」,「好適な対象」,および「監視体制の欠如」の実態把握を通じ,盗伐発生のメカニズムを検討した。その結果,小規模山林所有構造と相続登記の不徹底とによる立木売買交渉の高い取引費用が,山林仲介業者による伐採届偽造の背景要因となっていたことが示唆された。また,木材の価格上昇と需要増加が認められ,木材が好適な対象となったことが確認できた。そして,監視体制の欠如についても,山林所有者の低い所有意識と不十分な監視,および伐採届の監督機能の不足によって示された。また,山林仲介業者と素材生産業者との分業化に伴い,山林所有者に対する責任の所在が不明瞭になっていることが認められた。これらのことから,山林所有者および行政の監視体制の強化,および相続登記の徹底による立木売買の取引費用の低減が盗伐の抑制に有効であると考えられた。

  • ―宮城県米川生産森林組合A参事の事例―
    高野 涼, 伊藤 幸男, 山本 信次, 泉谷 眞実
    2019 年 101 巻 5 号 p. 214-220
    発行日: 2019/10/01
    公開日: 2019/12/01
    ジャーナル フリー

    本稿の課題は,乖離しているようにみえる森林・林業問題と山村問題が,山村住民の視点からみたときどのような関係になっているのかを明らかにすることである。事例として,木材生産の効率化や環境配慮型の森林経営に取り組みつつ,地域と結びついた森林利用を展開してきた米川生産森林組合を取り上げた。分析視角として,森林経営者であり山村住民でもあるA参事の視点から,経営の効率化,環境対応,森林体験活動がそれぞれどのように意味付けられているのかについて地域との関係に注目して分析した。その結果,(1)森林・林業問題と山村問題は,森林経営にかかわる山村住民の視点からもそれぞれ異なるものとして認識されていること,(2)しかし山村振興における森林の意味が失われてしまうことなく,地域に対する愛郷心を育んだり,地域の魅力を伝えたりする場としての意味が与えられていることが明らかになった。特に,地域の課題を住民の意識面の変容から捉え,それとの関わりで森林利用のあり方を考えている点が,こうした森林の意味を醸成している重要な要因であろう。

  • 原 千夏, 石井 弘明
    2019 年 101 巻 5 号 p. 221-226
    発行日: 2019/10/01
    公開日: 2019/12/01
    ジャーナル フリー

    近年,都市部の森林において侵略的外来種の分布拡大が問題となっている。木本の外来種ではトウネズミモチが森林に逸出し,近縁の在来種ネズミモチとの競合が懸念される。本研究では,様々な光環境に対する両種の順化・適応能力を比較するため,葉の形態形質の個体内・個体間変異(以下「可塑性」)を測定した。葉の乾重:面積比,クロロフィル・窒素濃度,最大光合成速度の個体内の可塑性に種間差はなかった。一方,多くの葉の形質において個体間の可塑性は,トウネズミモチの方がネズミモチよりも大きかった。これは,明るい環境に人為的に植栽されたネズミモチの可塑性が低かったことによるもので,たとえば最大光合成速度に関してはネズミモチが本来自生する光環境の範囲内ではトウネズミモチと同程度の可塑性を示した。トウネズミモチの侵略性には林縁部などの明るい環境における高い光合成速度による成長量の大きさが寄与していると考えられる。また,トウネズミモチは幅広い光環境に形態・生理的に順化・適応できることから,林縁部だけでなく,ネズミモチと競合する可能性のある林内を含む,様々な光環境における侵入・拡大に注意する必要がある。

  • 棚橋 生子, 眞坂 一彦, 佐藤 弘和, 福地 稔, 佐藤 孝弘
    2019 年 101 巻 5 号 p. 227-234
    発行日: 2019/10/01
    公開日: 2019/12/01
    ジャーナル フリー
    電子付録

    多雪地域の重粘土地における樹木の植栽方法検討のため,北海道当別町にある「道民の森・神居尻地区」の牧野跡地において,植栽基盤整備しない区画(無処理区)と,地表を畝上げ及び耕耘の処理を行った区画(畝上げ区と耕耘区)にコバノヤマハンノキを植栽し,その後6年間の生育状況を調査した。本試験地の土壌は固相率が高く気相率が低いのに加え,難透水性の重粘土であり,地表下10~20 cmに耕盤層が認められた。畝上げ区の土壌水分(pF値)は植物の生育にとって適正な範囲に収まることが多かったが,耕耘区では飽和状態になることもあった。植栽木には,越冬期間中に主軸折れ等の雪害を受けるものが多数あった。雪害を受けた個体数は最大積雪深が大きい年ほど多く,また樹高が高くなるほど雪害を受けにくくなる傾向が認められた。また,被害個体数は畝上げ区よりも耕耘区と無処理区で多い傾向だった。3処理区で樹高成長に大きな差は認められず,直径成長に差が現れた。直径成長の差は形状比の違いとなり,雪害への感受性に反映した。以上の結果から,多雪地域の重粘土地では耕耘よりも畝上げが効果的な植栽基盤整備方法として提案できる。

  • 山下 (中森) 由美子
    2019 年 101 巻 5 号 p. 235-241
    発行日: 2019/10/01
    公開日: 2019/12/01
    ジャーナル フリー

    大径化したウバメガシの更新手法を検討するため,ウバメガシ林伐採地において伐採1~3年後の個体からの萌芽発生(期首)と伐採5~6年後の生残(期末)を調査した。調査した6林分を,平均伐根直径によって二つのグループに区分した(「利用適期林分」,「大径化林分」)。ウバメガシの萌芽が発生した個体の割合は期首・期末とも利用適期林分で高かったのに対し,大径化林分では期末に減少した。大径化林分の伐根の萌芽率は,期首・期末とも伐根直径が大きいほど,また伐採高が高いほど低下した。伐根当たりの萌芽数については,それが最大になるような伐根直径のピークはみられなかった。一方,萌芽数は高齢な大径化林分で増加したのに対して,有萌芽の伐根数,最大萌芽長,萌芽径は利用適期林分で増加した。以上から,ウバメガシは萌芽性が強い樹種であるが,高齢化によって大径化すると萌芽力は低下し,無萌芽個体が増加することが明らかになった。よって,従来から行っている原木径6~12 cmで更新することは,ウバメガシの萌芽性からメリットが多いことがわかった。原木径が大きい場合には,伐採高を低くすることで伐根の萌芽率の低下を抑えられると考えられた。

短報
  • ―岩手木炭と浄法寺漆の伝統性と産地との結びつきの比較分析から―
    香坂 玲, 内山 愉太
    2019 年 101 巻 5 号 p. 242-245
    発行日: 2019/10/01
    公開日: 2019/12/01
    ジャーナル フリー

    2018年に林産物として初めて岩手木炭,続いて浄法寺漆が地理的表示保護制度へ登録されている。いずれも生産地は概ね岩手県内であり,両者の地理的な条件は類似しているが,申請に際しての動機,論理の構築,直面した課題が異なる。類似した地理的条件下での産物の比較は,欧州と比較して歴史が浅い日本の地理的表示保護制度の知見と可能性を理解する題材となりうる。本稿では農産物とは異なる様相を呈する林産物領域における地理的表示の最新の展開と状況を報告し,同制度の特性である「保存・伝承」と「経済性」の二面性を分析する。具体的には岩手木炭と浄法寺漆の登録の過程と暫定的効果について調査を実施した。結果,申請要件となる産地・土地との結びつきと伝統性について,正当性を構築するための論理,根拠についての相違点と共通点が明らかとなった。同時に,登録の二種類の動機(保存・伝承,経済性)が各林産物ごとに混在しつつも双方の目的を担った地理的表示活用を目指していることが示唆された。

  • ―37府県の概況について―
    香坂 玲, 内山 愉太
    2019 年 101 巻 5 号 p. 246-252
    発行日: 2019/10/01
    公開日: 2019/12/01
    ジャーナル フリー

    2024年の森林環境税導入に先駆け,2019年度から森林環境譲与税の自治体に対する交付が開始される。国と市町村が主軸となる森林環境譲与税だが,実際には都道府県にも影響を及ぼす。第一に,森林環境譲与税は都道府県にも配分され,市町村の支援を促すよう制度設計されている。第二に,森林等の保全を目的とした37の府県の既存の超過課税との関係性が問われる。そこで本研究では,37府県を対象とし,質問票および聞き取り調査の結果を基に,森林環境譲与税導入の影響を分析する。特に導入前後での市町村への支援政策と組織形態の変化に着眼した。結果,市町村支援に関しては,「森林所有者の意向調査の支援」等に重点が置かれ,組織的な変化については,環境譲与税(と関連する経営管理制度等)の名目で担当者を増加させた府県が5割程度存在した。既存組織の名称の変更や,環境譲与税担当部署の新設も把握された。また,1県では条例レベルで県・環境税の使途の中身を改定していた。

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