ニホンジカの分布拡大やそれにともなう森林の立木剥皮が,日本各地で報告されている。このようなニホンジカによる剥皮を効率的に防除するためには,剥皮発生に影響する要因を対象地域で明らかにする必要がある。本研究では,関東付近の9都県において,ニホンジカの密度指標の一つである目撃効率,傾斜,積雪深,立木の胸高直径,樹種と,ニホンジカによる立木の剥皮発生確率との関係を,調査地ごとと立木1本ごとで解析した。解析は,全都県および岐阜県,山梨県,栃木県について行った。その結果,調査地ごとの剥皮発生確率は,全都県と各県で積雪深が大きくなると高まるが積雪深がさらに大きくなると減少する一山形の傾向を示した。ニホンジカの目撃効率や傾斜が調査地ごとの剥皮発生確率に与える影響は,都県間で傾向が異なっていた。立木ごとの剥皮発生確率は,ニホンジカの目撃効率が大きいほど高まっており,ニホンジカによる剥皮の嗜好性は都県間で比較的共通していた。以上の結果から,ニホンジカによる剥皮発生に影響する要因は,関東付近の9都県においては比較的一貫していることが明らかになった。