主伐期を迎えている50年生以上のトドマツ人工林を対象に,保持林業が渓流水の硝酸態窒素濃度に及ぼす効果を検討するため,北海道空知地方のイルムケップ火山山麓の流域面積10 ha前後の小流域を単位として伐採実験を行った。流域内に一定量のトドマツ,混生広葉樹を保持する伐採区と,対照区として非伐採トドマツ人工林,天然生広葉樹林流域の計14流域を設定し,施業前後を含む10年間(施業前2~3年,施業後7~8年)の平水時の硝酸態窒素濃度の変化を比較した。保持木を材積割合で45~50%残した流域ではほとんど濃度上昇が見られず,保持材積20~30%では概ね伐採後3年間,濃度上昇する傾向が見られたが,その後の回復過程は小流域ごとに異なっていた。濃度上昇の有無に拘わらず,伐採後5年目以降は伐採前よりも硝酸態窒素濃度が下がる流域が複数見られ,北海道のトドマツ人工林では,保持木の成長回復や下層植生の旺盛な回復が窒素流出を抑制していることが示唆された。