里山林の植生構造に,過去の土地利用が人為攪乱として与えた影響を評価した。20世紀中葉の植生景観を空中写真より復元したところ,耕地周囲の起伏地上部は天然生林に覆われる一方,耕地に接した下部斜面は,草山や柴山と考えられる低い植生に覆われていた。地域住民からの聞き取りでは,過去に天然生林は10年以上の間隔で伐採され,薪炭が生産されていたが,山裾の草地は年に数度刈取られていた。現在の里山林の種組成は,20世紀中葉に天然生林であった場所と,耕地に隣接する低い植生であった場所とで,大きく異なっていた。前者で圧倒的に優占するコナラが後者では欠け,代わりに先駆樹種や竹類が優占していた。コナラは萌芽能力と繁殖早熟性により薪炭林や草山,柴山でも個体群を維持してきたと考えられている。しかし,年に数度という極めて頻繁な刈取り下では,萌芽の成長や種子生産が阻害されて個体群が維持されなかった上に,放置後成立した天然生林にも,光要求度の高いコナラは進入できなかったと推測された。このように調査地の現在の里山の植生景観には空間的な構造が認められ,そこには過去の利用に伴う人為攪乱様式の違いが投影されていると考えられた。