日本森林学会誌
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論文
高齢化したスギ・ヒノキ人工林小流域における下層土のNO3吸着による窒素流出の遅延効果
浦川 梨恵子戸田 浩人生原 喜久雄
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2007 年 89 巻 3 号 p. 190-199

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抄録

火山灰土壌は変位荷電による陰イオン交換容量(AEC)を有し,非特異吸着により陰イオンを吸着する。この特性が森林土壌におけるNO3動態に及ぼす影響を明らかにするため,バッチ法およびカラム法で火山灰の混入した森林土壌のA層およびB層のNO3吸脱着の特性を調べた。バッチ実験より,B層土壌は添加溶液(KNO3溶液)の濃度上昇に伴いNO3吸着量が増加し,変異荷電によるイオン吸着の特徴がみられた。A層のNO3吸着量はB層に比べて非常に少なかった。土壌の全C濃度とNO3吸着量との間には強い負の相関がみられ,正荷電量は有機物含量に規制されていた。一方,A層にはpHとNO3吸着量との間に負の相関が認められ,腐植による変異荷電が存在し,B層とは正荷電の主体が異なることが示唆された。カラム実験の結果,現地土壌水の伐採前後のNO3濃度の変動,およびB層厚より,伐採後の下層土のNO3吸着保持の増加は60 kgN ha-1と算出され,伐採後に林床で分解・放出された多量のNを一時的に保持し,渓流のNO3濃度の急激な上昇を抑制していると考えられた。カラム実験より,NO3溶液で平衡に達したB層カラムに脱イオン水を通すと,最終的には添加したNO3の全てが脱着することから,現地伐採流域における渓流へのNO3-N流出増加量は少ないが,流出増加は長期にわたると予測された。また,カラム実験および現地土壌水の陰イオン量の測定から,将来はNO3流出に引き続き,SO42-の流出の増加も予測された。

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© 2007 一般社団法人 日本森林学会
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