抄録
東京大学千葉演習林袋山沢試験地(北緯35°12′,東経140°06′)の森林皆伐試験について,森林伐採による流況曲線の変化を対照流域法により解析した。対照流域・処理流域ともに1 ha前後の山地小流域で,地質は新第三紀層,年平均降水量は2,170 mm,年平均気温は14.2°Cである。植生は約 70年生のスギ・ヒノキ人工林で,樹冠がほぼ閉鎖している壮齢林である。解析には対照流域のN日目流量に対する処理流域のN日目流量の回帰直線を用いた。伐採によって処理流域の各N日目流量は全体的に増加した。その増加量は高水側ほど大きかった。ただし1日目から11日目までは伐採の影響は必ずしも明瞭ではなかった。各N日目流量について対照流域流量に対する処理流域流量の回帰直線を伐採前後で比べると,直線の傾きはほとんど変化がなかったが,定数項は増加した。流況曲線の大半の区間において,地質などの違いによる流域間の流量差に比べて,伐採による流量変化の方が小さかった。森林小流域において,森林の植生状態は流況曲線に影響を与えるが,地質の違いの方が流況曲線により大きな影響を及ぼすと推察された。