日本森林学会誌
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90 巻, 1 号
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論文
  • 高橋 文, 小山 浩正, 高橋 教夫
    2008 年90 巻1 号 p. 1-5
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/10/15
    ジャーナル フリー
    山形県庄内平野の赤川河川敷において,外来植物であるニセアカシアの分布拡大に対する種子の役割,特に,土壌シードバンクが新規の個体群形成に貢献しているか調査した。植生図を用いて解析した結果,水平根では到達困難な距離にもニセアカシアのパッチは存在しており,全パッチ数の1/3に及んでいた。さらに,5年間の植生図の推移を追うと,新規パッチ30個中,12個が種子によって新規に形成されたと推察された。ニセアカシアは硬皮休眠種子を生産するため,土壌シードバンクを形成すると考えられる。土壌シードバンクの分布パターンを調査すると,同種の林冠下には平均で60粒/m2以上の埋土種子が存在したが,ニセアカシア林以外の植生ではほとんどみつからなかった。このことから,土壌シードバンクはすでにニセアカシア林が存在する場所が撹乱を受けた場合の再生・維持には有効だが,同種の存在しない場所で新規に個体群を形成するのは不可能と考えられた。したがって,散布種子が直ちに発芽することによって,林分が創出されていると推察された。今後は,根萌芽だけでなく種子からの再生も考慮に入れた制御方法の考案が急務である。
  • —集水域単位で林齢の異なるスギ人工林を用いて—
    福島 慶太郎, 徳地 直子
    2008 年90 巻1 号 p. 6-16
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/10/15
    ジャーナル フリー
    皆伐・再造林施業が渓流水質に与える影響を明らかにするため,奈良県十津川村の集水域単位で林齢が異なるスギ人工林の中の33集水域で渓流水質を通年観測した。渓流水のNO3 濃度は1年生集水域で最も高く,9年生までに低下し13年生で87年生集水域の値に近づいた。各集水域の平均NO3 濃度について林齢・面積・標高・勾配・斜面方位を要因とした重回帰分析の結果,林齢が濃度のおもな規定要因であった。また,林齢に対するNO3 濃度パターンは先行降雨の多寡に依存していなかった。皆伐後のNO3 濃度とスギの成長パターンから,植生回復が濃度低下に寄与することが示唆され,欧米の研究例と一致した。しかし,欧米に比べNO3 濃度が皆伐前までの値に回復する期間が長く,下刈りによる下層植生回復の遅延や土壌水から渓流水までの浸透過程がその原因と考えられた。また,NO3 濃度とともにカチオン濃度の上昇がみられたがAl濃度やpHは変化しなかった。以上から,皆伐後の硝化速度の上昇に起因する土壌酸性化は渓流に至るまでに緩衝されるが,窒素やカチオンの流出は皆伐・植栽後9年程度続くことが示された。
  • 指村 奈穂子, 鈴木 和次郎, 井出 雄二
    2008 年90 巻1 号 p. 17-25
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/10/15
    ジャーナル フリー
    絶滅危惧種ユビソヤナギを保全する方法を検討するため,湯檜曽川の水辺域に25個の調査プロットを設置し,林分構造と地形ユニット,林齢を調べた。湯檜曽川の水辺林は,オノエヤナギ,オオバヤナギ,ユビソヤナギ,サワグルミ,ブナが優占する五つの森林構造タイプに類型化された。オノエヤナギタイプは低位氾濫原にのみ分布し,ユビソヤナギタイプとオオバヤナギタイプは低位氾濫原と高位氾濫原に,サワグルミタイプは低位氾濫原と高位氾濫原および谷壁斜面に,ブナタイプは段丘と谷壁斜面に分布していた。また,ヤナギ科樹種が優占するタイプの林齢は45年以下で,その中でもオノエヤナギタイプは27年以下に限られていた。サワグルミタイプとブナタイプは88年以上であった。ユビソヤナギタイプは,河川撹乱による裸地に形成され,サワグルミ林に遷移するまでの間,存立する林分であると考えられた。湯檜曽川では,広い谷底に特有の多様な撹乱体制と立地環境の影響で,これら主要な5タイプの林分がモザイク構造を作っていることが明らかになった。ユビソヤナギ個体群を水辺林の多様性とともに保全するためには,現在の撹乱体制とそれに対応した立地環境を維持することが必要不可欠である。
  • 小池 伸介, 正木 隆
    2008 年90 巻1 号 p. 26-35
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/10/15
    ジャーナル フリー
    食肉目による果実食の実態を把握するため,ツキノワグマ,テン,タヌキの3種を対象に,文献情報に基づいて果実の利用を分析した。その結果,ツキノワグマとタヌキは高木・ツル植物の果実をよく利用していたが,テンは低木とツル植物果実をよく利用していた。ツキノワグマは液果だけではなくブナ科の堅果などをよく利用していた。このような種間差は,高木の樹冠部にアクセスできる能力や利用する果実タイプが種によって異なるためと考えられた。また,ツキノワグマは脂肪分に富む果実を利用する傾向を示したが,他2種はそれらをあまり利用していなかった。これは冬季の冬眠の有無を反映していると考えられた。さらに,いずれの種も多くの樹種の液果を利用していることから,森林における種子散布者として重要な機能を果たしている可能性が高いと考えられた。
  • —流況の流域間変動に対する植生要因の大きさの検討—
    真板 英一, 鈴木 雅一
    2008 年90 巻1 号 p. 36-45
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/10/15
    ジャーナル フリー
    東京大学千葉演習林袋山沢試験地(北緯35°12′,東経140°06′)の森林皆伐試験について,森林伐採による流況曲線の変化を対照流域法により解析した。対照流域・処理流域ともに1 ha前後の山地小流域で,地質は新第三紀層,年平均降水量は2,170 mm,年平均気温は14.2°Cである。植生は約 70年生のスギ・ヒノキ人工林で,樹冠がほぼ閉鎖している壮齢林である。解析には対照流域のN日目流量に対する処理流域のN日目流量の回帰直線を用いた。伐採によって処理流域の各N日目流量は全体的に増加した。その増加量は高水側ほど大きかった。ただし1日目から11日目までは伐採の影響は必ずしも明瞭ではなかった。各N日目流量について対照流域流量に対する処理流域流量の回帰直線を伐採前後で比べると,直線の傾きはほとんど変化がなかったが,定数項は増加した。流況曲線の大半の区間において,地質などの違いによる流域間の流量差に比べて,伐採による流量変化の方が小さかった。森林小流域において,森林の植生状態は流況曲線に影響を与えるが,地質の違いの方が流況曲線により大きな影響を及ぼすと推察された。
  • 井藤 宏香, 伊藤 哲, 塚本 麻衣子, 中尾 登志雄
    2008 年90 巻1 号 p. 46-54
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/10/15
    ジャーナル フリー
    二次林の遷移に伴う株構造の変化が林分構造の変化に及ぼす影響を明らかにするために,林齢の異なる照葉樹二次林で調査を行った結果,二次林の発達過程には次の三つの段階が検出された。1)伐採後18年を経た段階では,萌芽由来の照葉樹林型高木種が林冠を優占し,伐採直後に優占していた先駆種は,林冠に到達した萌芽個体の被圧によって消失したと考えられた。2)伐採後23∼46年では,林冠個体の多幹率(全個体に対する多幹個体の割合)と平均幹本数,そして実生由来の下層個体の数が減少しており,林冠が閉鎖したために,劣勢な幹の自然間引や実生の定着阻害が起きたと考えられた。3)伐採後60年を経過する段階から萌芽由来の林冠個体が減少しており,株内での幹の競争により単幹化した個体で枯死が発生していることが示唆された。同時に林床の実生も増加しており,林冠個体の枯死に伴う林冠ギャップの形成と林冠構造の複雑化により林床の光環境が好転し,再び実生が侵入したと考えられた。
短報
  • 川西 基博, 小松 忠敦, 崎尾 均, 米林 仲
    2008 年90 巻1 号 p. 55-60
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/10/15
    ジャーナル フリー
    人工林から天然性の渓畔林への誘導を目的とし,渓畔域に位置するスギ人工林において間伐およびリター除去を行い,植物の定着との関係を調査した。発芽した出現種数,発生個体数,生残個体数は無処理区や巻き枯らし区よりも皆伐区や間伐区で多い傾向があった。リターを除去した方が発生個体数,出現種数ともに有意に多かった。また,渓畔林構成種の出現種数は増加したものの,フサザクラなどの一部の樹種が優占し,シオジやサワグルミなどの主要樹種はみられなかった。草本植物の渓畔林構成種はわずかしかみられなかった。伐採や林床処理によって天然更新が可能であると考えられたが,天然性渓畔林に近い林分へ誘導するためには,長期的な研究を行い,その結果によっては,一部の種の植栽や播種による導入も検討する必要がある。
総説
  • 北島 博
    2008 年90 巻1 号 p. 61-69
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/10/15
    ジャーナル フリー
    カミキリムシ類の人工飼育技術に関して,供試虫の確保,成虫,卵,幼虫,蛹の各発育ステージごとの取り扱い,および発育の斉一化方法に分けてレビューした。幼虫の餌として,一般的には天然の餌および人工飼料が用いられる。人工飼料として,寄主植物の乾燥粉末が主成分である飼料と,脱脂大豆粉末,デンプン,スクロース,および小麦胚芽が主成分で,それに寄主植物を添加した飼料が多く用いられている。また,休眠打破のための低温処理や,蛹化を斉一化させるための最適な日長条件が考案されている。人工条件下で継代飼育を行うためには,飼育の目的,労力,および設備に合わせて幼虫の飼育方法を選択し,その上で飼育計画を策定する必要がある。
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