日本森林学会誌
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総説
ニホンジカの摂食によって植生が変化した奈良公園におけるトサカグンバイの生活史形質の遺伝的な変化
塚田 森生
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2008 年 90 巻 5 号 p. 348-355

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抄録
シカの個体群密度が数百年にわたって高密度で維持されている奈良公園では,植生の単純化によりカメムシ目の植食性昆虫トサカグンバイの寄主植物が事実上アセビしかない。このため,通常はアセビおよびネジキの2種の寄主植物間で季節的な寄主転換を行う本種が,奈良公園では寄主転換を行わない。長期間にわたるこのような生活環の違いがどのような遺伝的な変化をもたらしているのかを実験的に調べた。同じ条件下で羽化させた場合でも,寄主転換する京都個体群の個体は奈良個体群の個体より産卵数が少ない傾向があった。どちらの個体群の虫にとっても,ネジキはアセビよりもはるかに多い産卵数を達成できる質の良い寄主であったが,通常ネジキを利用している京都の虫にこの傾向がやや強かった。同じ条件で飼育したあとでも,京都の虫は奈良の虫と比較して,ネジキを強く選好する傾向がみられた。寄主転換を行う場合,特に寄主間の移動を行う世代で相対的な翅長が長くなることから,産卵数の減少はそれにともなうコストと考えられた。
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© 2008 一般社団法人 日本森林学会
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