大型草食獣は生態系に直接的・間接的に影響を及ぼす。本論文では大型草食獣による直接的な影響が,植物と動物の相互作用を改変することにより,再び植物に影響する,フィードバック型間接効果について研究例を紹介し,この間接効果が生じるメカニズムについて考察を行った。房総半島ではニホンジカの採食によりアオキの個体密度が低下している。アオキの種子生産には,ジェネラリスト昆虫による花粉媒介と,アオキミタマバエによる種子寄生の,二つの生物的要因が関与する。シカの採食がアオキの個体密度,受粉,寄生に与える影響を野生個体群で調べたところ,花粉媒介と種子寄生は,アオキの個体密度の減少に対して異なった応答を示し,アオキ密度が低下する傾向にあったシカ分布域では,寄生率は低下していたが,受粉率は変化しなかった。つまり,生物間相互作用における密度依存性は,大型草食獣による植物へのフィードバック型間接効果を引き起こすメカニズムの一つであり,生物間相互作用における密度依存的応答の仕方によって,フィードバック型間接効果の帰結が決定されると考えられる。