日本森林学会誌
Online ISSN : 1882-398X
Print ISSN : 1349-8509
ISSN-L : 1349-8509
90 巻, 5 号
選択された号の論文の10件中1~10を表示しています
論文
  • 福士 亮太, 小熊 宏之, 米 康充, 鈴木 恵一, 岡野 哲郎, 藤沼 康実
    2008 年90 巻5 号 p. 297-305
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/01/20
    ジャーナル フリー
    デジタル航空写真とLiDARを用いた森林の現況調査手法を検討するため,カラマツ林を対象に基本的な林分因子である立木本数,平均樹高,材積の推定を行った。まず,樹種別の推定のため,マルチスペクトル画像から5クラスの樹種分類図(カラマツ,アカマツ,広葉樹,非植生,影)を作成した結果,分類精度は90%以上であった。次に,ステレオペアのパンクロマチック画像から作成したDSM(Digital Surface Model)とLiDARのDTM(Digital Terrain Model)を用いて単木の樹冠抽出を行い,樹種分類図と重ね合わせて抽出樹冠の樹種を特定し,樹冠ごとに林分因子の推定を行った。毎木調査との精度検証の結果,カラマツでは立木本数の推定率が85.6%,平均樹高の誤差が0.4 m,材積の推定率が84.9%であった。樹種別では,広葉樹よりも針葉樹において推定精度が高く,樹冠形の違いが影響していると考えられた。
短報
  • 岡田 充弘, 中村 克典
    2008 年90 巻5 号 p. 306-308
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/01/20
    ジャーナル フリー
    長野県塩尻市および岩手県盛岡市のアカマツ林内にアカマツ製材を設置してオオゾウムシの加害状況を調査した。オオゾウムシは,試験材の樹皮残存部に多く穿入したが,製材面でも穿入がみられ,産卵当年の冬までに成虫まで発育するものもあった。試験材の辺材部含水率は試験終了時でも平均82.5∼99.7%で湿潤な状態を保っていた。これらから,オオゾウムシは十分に湿潤な材であれば樹皮がなくても産卵,生育できると判断した。
  • —種子捕食に対する積雪の保護効果の検証—
    小山 浩正, 竹内 華純, 高橋 教夫, 石井 健
    2008 年90 巻5 号 p. 309-312
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/01/20
    ジャーナル フリー
    豪雪地帯において,ブナの稚樹が母樹の根元で少ない原因が野ネズミによる種子の捕食にあることを確かめるために,豊作翌年の2006年に母樹からの距離ごとの当年生実生の発生数を調べた。対象とした林分では,2005年の豊作時には種子落下数が母樹からの距離と関係がなかったにもかかわらず,翌春に発生した当年生実生は母樹の根元周辺で著しく少なく,母樹から離れるほど多い傾向にあった。また,菌害などで発芽に失敗した種子の数は少なく,距離による違いもみられなかった。これらのことは,春先の残雪が野ネズミによる種子の捕食を軽減する効果があり,ブナの稚樹バンクの空間的分布パターンの決定には,種子の段階における捕食回避の可否が大きく関わっていたことを示唆している。
特集「ニホンジカによる森林の変化が昆虫類に及ぼす影響」
巻頭言
総説
  • 佐藤 宏明
    2008 年90 巻5 号 p. 315-320
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/01/20
    ジャーナル フリー
    奈良県大台ヶ原では,近年,増加したニホンジカ(Cervus nippon)による樹皮剥ぎや実生の採餌により原生林の衰退が顕著となっている。一方,シカの被食に対し高い耐性を有するミヤコザサ(Sasa nipponica)が林床をおおう林や,一面ミヤコザサからなる草地が拡大している。ミヤコザサは蛋白質が豊富であり,シカの主要な餌資源となっているため,森林が衰退しミヤコザサが優占する場所では糞供給量が増加していると考えられる。そこで,原生林の衰退が糞を餌資源とする糞虫群集にどのような影響を及ぼしているかを明らかにするため,原生林,ササ草地およびその間の移行林に仕掛けた誘因式ピットフォールトラップによって得られた糞虫に基づき多様度を植生間で比較した。種数,均衡度(Smith-Wilson index, Evar),種多様度(Shannon-Wiener index, H′)のいずれも,原生林で最も高い値を示した。移行林では糞虫個体数の増加がみられたものの,均衡度はもっとも低い値を示し,ササ草地では種数,均衡度ともに最も低い値であった。このことは,ニホンジカの増加による森林の衰退は,糞という餌資源の増加があったとしても,糞虫群集の多様性を減少させていることを示唆する。したがって,このような生態系の変化は生物多様性の保全という観点から糞虫群集にとっても好ましい現象ではないといえる。
  • 宮下 直
    2008 年90 巻5 号 p. 321-326
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/01/20
    ジャーナル フリー
    クモ類は陸上生態系を代表するジェネラリスト捕食者であり,その約半数の種は植物上や地表に網を張って生活する造網性である。造網性クモ類は,捕食様式や生息場所が多様なうえに,餌や棲み場所の資源量や個体数などの把握が容易であるため,シカによるインパクトの研究には大変好都合な材料である。著者らは房総半島で,シカが森林の造網性クモ類に影響を与える仕組みや,クモの密度変化が餌昆虫に及ぼす影響を明らかにした。植生上のクモ類はシカ密度とともに減少したが,それには餌条件ではなく造網足場である下層植生の減少が効いていた。また造網性クモ類に寄生するイソウロウグモ類では,減少率がさらに顕著であった。一方,地表のリター上に造網するクモ類では,シカがいると増加する傾向があった。これは,地表の植物被度の減少が地表性種にとってはプラスに働いていることが原因と考えられた。さらに,シカの増加による植生上のクモ類の減少は,土壌由来の飛翔性昆虫類を増加させることがわかった。今後,こうした相互作用連鎖を理論面から一般化する試みが重要であろう。
  • 丹羽 慈
    2008 年90 巻5 号 p. 327-334
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/01/20
    ジャーナル フリー
    草食獣は土壌生態系の構造と機能にさまざまな間接効果を及ぼしている。草食獣による,植物組織から排泄物への変換,根滲出量の変化,植物中の二次代謝物質や窒素の含有率の変化,植生の変化は,土壌に供給される有機物の質と量を変化させ,その結果植物の成長に必要な窒素の無機化機能に影響する。草食獣が生態系の窒素循環に及ぼす影響の正負は,植物の生産性と採食強度によって大きく規定されると考えられる。草食獣は,土壌線虫の生息密度や群集構造にも影響を及ぼす。ニホンジカが土壌生態系に及ぼす影響についての研究例は少ないが,その影響は採食強度や生息密度によって異なり,窒素無機化速度に対し正負いずれの影響も及ぼしうることが,ミヤコザサの摘葉実験やニホンジカの導入実験から明らかになった。シカの採食量,一次生産量,リター供給量,窒素無機化量の定量的関係を明らかにし,すでに研究の進んでいる植生の変化パターンと対応させ,シカが生態系の養分循環に与える影響を総合的に理解することが必要であろう。
  • 上田 明良, 田渕 研, 日野 輝明
    2008 年90 巻5 号 p. 335-341
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/01/20
    ジャーナル フリー
    奈良県大台ヶ原において,ニホンジカ(Cervus nippon)の主要餌であるミヤコザサ(Sasa nipponica)の稈にゴールを形成するタマバエ(Oligotrophini族)の生残と,これに寄生する2種の寄生蜂,Pediobius sasaeTorymus sp.の寄生を防鹿柵内外で比較した。シカの採食は間接的にゴールの幅を小さくしていた。防鹿柵内では柵外と比べるとタマバエの生残率が高く,Torymus sp.の寄生率も高かったが,P. sasaeの寄生率は低かった。P. sasaeの寄生は,防鹿柵内では幅の小さなゴールに集中していたが,柵外ではゴール幅に関係なかった。Torymus sp.はP. sasaeよりも産卵管が長く,羽化が短期間で完了した。これらのことから,タマバエとTorymus sp.は,P. sasaeの短い産卵管では届かないような大きなゴール内では生残でき,これが防鹿柵内外の生残率と寄生率の違いを生じさせていると考えられた。このように,シカによるミヤコザサの採食は,間接的にゴール幅を小さくし,P. sasaeの寄生を助長して,タマバエの生残とTorymus sp.の寄生を妨げていた。
  • —花粉媒介と果実寄生を介して—
    国武 陽子, 寺田 佐恵子, 宮下 直
    2008 年90 巻5 号 p. 342-347
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/01/20
    ジャーナル フリー
    大型草食獣は生態系に直接的・間接的に影響を及ぼす。本論文では大型草食獣による直接的な影響が,植物と動物の相互作用を改変することにより,再び植物に影響する,フィードバック型間接効果について研究例を紹介し,この間接効果が生じるメカニズムについて考察を行った。房総半島ではニホンジカの採食によりアオキの個体密度が低下している。アオキの種子生産には,ジェネラリスト昆虫による花粉媒介と,アオキミタマバエによる種子寄生の,二つの生物的要因が関与する。シカの採食がアオキの個体密度,受粉,寄生に与える影響を野生個体群で調べたところ,花粉媒介と種子寄生は,アオキの個体密度の減少に対して異なった応答を示し,アオキ密度が低下する傾向にあったシカ分布域では,寄生率は低下していたが,受粉率は変化しなかった。つまり,生物間相互作用における密度依存性は,大型草食獣による植物へのフィードバック型間接効果を引き起こすメカニズムの一つであり,生物間相互作用における密度依存的応答の仕方によって,フィードバック型間接効果の帰結が決定されると考えられる。
  • 塚田 森生
    2008 年90 巻5 号 p. 348-355
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/01/20
    ジャーナル フリー
    シカの個体群密度が数百年にわたって高密度で維持されている奈良公園では,植生の単純化によりカメムシ目の植食性昆虫トサカグンバイの寄主植物が事実上アセビしかない。このため,通常はアセビおよびネジキの2種の寄主植物間で季節的な寄主転換を行う本種が,奈良公園では寄主転換を行わない。長期間にわたるこのような生活環の違いがどのような遺伝的な変化をもたらしているのかを実験的に調べた。同じ条件下で羽化させた場合でも,寄主転換する京都個体群の個体は奈良個体群の個体より産卵数が少ない傾向があった。どちらの個体群の虫にとっても,ネジキはアセビよりもはるかに多い産卵数を達成できる質の良い寄主であったが,通常ネジキを利用している京都の虫にこの傾向がやや強かった。同じ条件で飼育したあとでも,京都の虫は奈良の虫と比較して,ネジキを強く選好する傾向がみられた。寄主転換を行う場合,特に寄主間の移動を行う世代で相対的な翅長が長くなることから,産卵数の減少はそれにともなうコストと考えられた。
feedback
Top