2020 年 53 巻 6 号 p. 533-541
外科医は手術記載を作成することを怠ってはならない.その内容には,医療行為の中で特に侵襲的な外科手術が行われるに至った根拠,施行中の経過と結果について簡潔かつ明瞭に記載しなければならない.診療録の一部であり,公文書であることは論を俟たない.その一方で学術的活動に必要な情報の保持媒体となり,かつ外科医本人の診療にかける熱意を表現できる数少ない手段でもある.外科臨床にはscienceとartの両面があるといわれるが,業務の効率性が重視される近年においては,特にartの領域について論じることは以前よりも難しくなったと感じる.それでもなお,手術記載には外科医個人の持つ個性,「疾患に対する侵襲的処置」という本質的に望ましくない事象に向き合う姿勢をartの側面から他者に伝える機能が残っている.