1995 年 2 巻 p. 33-46
医師の過剰を医師密度の他国間比較で論ずると、国情の違いもあって一律の議論は難しく、また、望ましい医療の観点で論ずると規範的な議論で終始する恐れがあって、医師過剰と判断する根拠の提示は難しい。しかしながら、医師を雇用する医療機関の経営持続性に注目して、医療費抑制下での医師過剰時に起るであろう医師待遇の低下とそれに続く医師の質の低下を極力回避できる状況を検討すれば、より現実に即した医師過剰を論ずることが可能となり、それをもって医師養成体制の今後が議論できるものと考えられる。わが国の場合、厚生省が将来に予想する高い伸び率の国民医療費が仮に成ったとしても、今のままの勢いで医師の供給が進むと机上の計算では医師の職が確保されそうだが、医師の報酬の低下は避けられず、極端な場合には、30数年後の医師は一般のサラリーマンの賃金の水準と大差ない待遇すらありうると予想され、医師の質の確保が危ぶまれる。そこで、わが国の場合にはその危機ラインの年次を迎える頃の医師密度水準がドイツやフランスよりもずっと低い米国の水準(但し、1989年)に相当しており、この水準に至るまでに実効性のある医師供給管理施策の実施が急がれるものと考える。