わが国医療保障制度の全てが網羅され、反映されている国民医療費は「我が国の医療経済における重要な指標」と言われているにもかかわらず、それに関する分析・研究が未だ十分なものとはいえないのが現状である。とりわけ、国民医療費の推計方法そのものについては今日まで全容が全く明らかにされておらず、結果として国民医療費の存在をわれわれから遠ざける結果となっている。
このような見地から、医療経済研究の中枢に位置すべき国民医療費の中核的基礎となる制度区分別国民医療費推計の一手法を開示し、国民医療費をより身近な存在とし、ひいては今後の国民医療費に関する分析・研究ならびにわが国医療経済研究の発展に毫たりとも資さんとすることが、本稿の求めるところである。
本稿はⅠ~Ⅳの4章より構成されている。まず、第Ⅰ章においては本稿の目的を記している。続く第Ⅱ章においては国民医療費の範囲と推計の基本について述べるとともに、これまで公表されてきた『国民医療費』に見られる疑問点、問題点を指摘する。また、第Ⅲ章においては制度区分別国民医療費について詳細な諸資料を提示しつつ、各項目ごとに個別かつ具体的に分析し、その推計手法の開示を試みている。さらに、第Ⅳ章においては「推計」と位置づけられてきた『国民医療費』は「推計」というよりも「統計」の名を冠すべきものであることを論じるとともに、国民医療費の概念の再検討・対象の見直しの必要性に言及している。
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