医療経済研究
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2 巻
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依頼論文
  • -現状と改善試案-
    池上 直己
    1995 年 2 巻 p. 5-16
    発行日: 1995/12/01
    公開日: 2025/01/29
    ジャーナル フリー

    「薬づけ、検査づけ」医療に対する批判が多いが、主に入院外について社会医療診療行為別調査を分析すると、その実態は利潤追求よりむしろ技術の浸透による医療費の増加にあったと推測される。生化学的検査Iのマルメ対象項目の項目数は、診療所から中小病院、大病院、医育機関の順にに増加しており、また1988年と1991年を比べれば、どの医療機関分類でも増加していた。画像診断においてはCT撮影の実施率は増加し、X線特殊撮影と造影剤使用撮影は若干減少して、両者の間には技術の代替が部分的に見られた。一方、1991年について薬剤を分析すると新薬の利用割合はいずれの薬効分類においても高いが、医療機関および患者の各属性との間には明らかな傾向は見られなかった。以上の分析から、現状を改善するためには公的大病院を中心に各病院のパフォーマンスにリンクした包括料金の導入と新たな薬剤政策を検討する必要があるといえよう。

  • -不確実性・保険原理・高齢化をめぐる一考察-
    広井 良典
    1995 年 2 巻 p. 17-25
    発行日: 1995/12/01
    公開日: 2025/01/29
    ジャーナル フリー

    社会保障については、従来よりその「理論の貧困」が指摘されてきているが、高齢化の急速な進展という構造的な変化を視野に収めつつ、また、介護問題をはじめとする眼前の具体的課題に対する基本的な方向づけを考えるためにも、社会保障のあり方についての原点に立ち返った考察が求められている。

    本稿では、こうした問題意識から、産業化及び高齢化という経済社会の歴史的な変動プロセスと、社会保障システムの国際比較という観点を参照しながら、社会保障のおかれた現在の位相を「社会保障と福祉(公的扶助)の連続化」という点においてとらえ、これを踏まえて今後の社会保障のあり方について考察を行う。

  • 開原 成允
    1995 年 2 巻 p. 27-32
    発行日: 1995/12/01
    公開日: 2025/01/29
    ジャーナル フリー

    情報システムの発達に伴い、診療の現場の医師に、診療行為を行おうとする瞬間に様々な情報を提供することができるようになった。

    東大病院では、検査を行う医師に対し検査依頼項目が不必要に多い時は警告を発するシステムを作成したところ、検査依頼の数が著しく減少した。このシステムから警告を受けた医師の意見を求めたところ、医療上の悪影響があるとした医師は少数で、教育的効果を認めた医師が多かった。このことは、納得の上でより少ない検査数を採択したことになり、医療上の合理性を保ちつつ、経済的にもより合理的な医療が行われたと考えられる。

    このシステムはー病院内のシステムであるが、これと同じようなシステムが全国的に普及したと仮定すると、その医療経済に与える影響は大きい。そのためには、日本の医療関係者が合意した標準的な医療方式が必要である。

投稿論文
  • 西田 在賢
    1995 年 2 巻 p. 33-46
    発行日: 1995/12/01
    公開日: 2025/01/29
    ジャーナル フリー

    医師の過剰を医師密度の他国間比較で論ずると、国情の違いもあって一律の議論は難しく、また、望ましい医療の観点で論ずると規範的な議論で終始する恐れがあって、医師過剰と判断する根拠の提示は難しい。しかしながら、医師を雇用する医療機関の経営持続性に注目して、医療費抑制下での医師過剰時に起るであろう医師待遇の低下とそれに続く医師の質の低下を極力回避できる状況を検討すれば、より現実に即した医師過剰を論ずることが可能となり、それをもって医師養成体制の今後が議論できるものと考えられる。わが国の場合、厚生省が将来に予想する高い伸び率の国民医療費が仮に成ったとしても、今のままの勢いで医師の供給が進むと机上の計算では医師の職が確保されそうだが、医師の報酬の低下は避けられず、極端な場合には、30数年後の医師は一般のサラリーマンの賃金の水準と大差ない待遇すらありうると予想され、医師の質の確保が危ぶまれる。そこで、わが国の場合にはその危機ラインの年次を迎える頃の医師密度水準がドイツやフランスよりもずっと低い米国の水準(但し、1989年)に相当しており、この水準に至るまでに実効性のある医師供給管理施策の実施が急がれるものと考える。

  • 府川 哲夫
    1995 年 2 巻 p. 47-54
    発行日: 1995/12/01
    公開日: 2025/01/29
    ジャーナル フリー

    老人医療における受診者はきわめて多様であり、その中には入院治療の必要がなくなったにもかかわらず非医学的理由で入院している「社会的入院」も含まれている。老人医療レセプ卜・データを用いて、年間平均の1日当たり医療費が一定額(入院中の宿泊や食事に要する費用に相当する額、以下「基本料」と呼ぶ)以下の入院患者を「社会的入院」者と定義した場合の社会的入院の大きさを評価した。基本料の算出には長期入院者の1日当たり医療費(年間平均)を用いた。その結果、70歳以上人口の3~6.5%が社会的入院をしていると推測された。中間的なケースを例にとると、老人人口の4%、1年間に入院したことのある者の19%が社会的入院をしており、そのために要した費用は1年間の老人医療費のおよそ14%という結果になった。社会的入院は年齢階級の上昇とともに増え、同じ年齢階級では男より女の方に多く、また、入院日数の増加とともに急増した。社会的入院がなかったと仮定すると、老人人口1人当たり医療費の入院対入院外の比率は1.14対1から0.87対1に変化し、入院と入院外の大きさが逆転した。社会的入院の客観的定義は難しく、ここでの社会的入院の判定基準は最も限定的な評価方法の1つと考えられるが、入院期間の長さだけで社会的入院を判定する方法よりは優れているといえる。

  • 田村 誠, 川田 智恵子, 橋本 廸生
    1995 年 2 巻 p. 55-70
    発行日: 1995/12/01
    公開日: 2025/01/29
    ジャーナル フリー

    保健・医療資源の配分、とくに最終的に誰に配分するか、といった臨床現場レベルでの資源配分は、医療技術の高度化等に伴う保健・医療資源の相対的な稀少化(例えば、移植するための臓器)の進展や資源配分の効率化の進展により、今後その「公正さ」が問題になる可能性がある。そこで資源配分の公正さに関し、一般住民と医療従事者の選好調査を行った。えられた主な結果は次の通りである。

    ①全体としては、「平等」な配分に対する受容性が幅広くみられた。②一方、功利主義的考え方の受容性も一部みられた。その傾向は、保健医療サービスの種類としては、生死に直接関係のない医療よりも、むしろ生死に関係する医療でみられた。③また、配分基準としては「年齢(高齢者よりも若年者を優先)」および「家庭内役割(親の介護、育児等の役割を有している人を優先)」の2つが導かれた。④「社会的地位」「職業」「社会貢献度(ボランティア)」等は資源配分の基準としての受容性が低かった。

  • 森賀 三恵, 池田 俊也, Michael R Reich
    1995 年 2 巻 p. 71-81
    発行日: 1995/12/01
    公開日: 2025/01/29
    ジャーナル フリー

    本研究では、わが国で過去に報告された医薬品経済評価論文を収集し、体系的なレビューを試みた。文献収集は、医学文献データベース等を用いて行い、10文献が収集された。レビュ一項目は、医療技術経済評価に関する文献および教科書がオーストラリア・カナダ・英国・米国における医薬品経済評価ガイドライン等を参考に決定した。今回の分析結果を米国における医療技術経済評価論文のレビュー結果と比較したところ、1項目については米国と同様の問題が存在していたが、他の2項目については米国よりも結果が優れていた。また、今回収集した論文の大部分において、「分析視点の明確化」や「割引率の感度分析」といった、医薬品経済評価研究において重要な項目のいくつかが欠如していることが明らかとなった。

研究ノート
  • 大知 久一, 桑山 哲也, 田中 信朗, Gregory P. Hess, Chris Kozma, Amy Grogg
    1995 年 2 巻 p. 83-92
    発行日: 1995/12/01
    公開日: 2025/01/29
    ジャーナル フリー

    日本における医薬品の経済的評価の進展状況を把握するため、①日本製薬工業協会の会員会社、②医療経済研究機構で登録された医療経済研究者、③日本の全薬学部、④全大学病院および⑤任意抽出の厚生省関係者にアンケー卜を実施した。

    268通の送付に対し、114通の有効回答があり、以下の項目に着目して結果を分析した。

    1) 医薬品の経済的評価の実施状況、活用状況

    2) 医薬品の経済的評価の、各種意思決定および研究開発における活用可能性

    3) 方法論としての手法の評価

    4) 医薬品の経済的評価の進展に対する障害

    定性的に言えば、日本における医薬品の経済的評価は発展の初期段階にあり、実施・活用状況については回収分の60~65%が活発ではないことを示している。全ての回答者が医薬品の経済的評価の有用性自体は認めており、その活用については「産業分野」、「研究開発のフェーズIV」において最も活用可能性が高いと考えている。現時点では、方法論や実施の目的に関する社会的な共通認識も形成されていない。また、発展のための最大の障害は、専門家と良質なデータの不足と考えられている。

  • 辻 泰弘
    1995 年 2 巻 p. 93-112
    発行日: 1995/12/01
    公開日: 2025/01/29
    ジャーナル フリー

    わが国医療保障制度の全てが網羅され、反映されている国民医療費は「我が国の医療経済における重要な指標」と言われているにもかかわらず、それに関する分析・研究が未だ十分なものとはいえないのが現状である。とりわけ、国民医療費の推計方法そのものについては今日まで全容が全く明らかにされておらず、結果として国民医療費の存在をわれわれから遠ざける結果となっている。

    このような見地から、医療経済研究の中枢に位置すべき国民医療費の中核的基礎となる制度区分別国民医療費推計の一手法を開示し、国民医療費をより身近な存在とし、ひいては今後の国民医療費に関する分析・研究ならびにわが国医療経済研究の発展に毫たりとも資さんとすることが、本稿の求めるところである。

    本稿はⅠ~Ⅳの4章より構成されている。まず、第Ⅰ章においては本稿の目的を記している。続く第Ⅱ章においては国民医療費の範囲と推計の基本について述べるとともに、これまで公表されてきた『国民医療費』に見られる疑問点、問題点を指摘する。また、第Ⅲ章においては制度区分別国民医療費について詳細な諸資料を提示しつつ、各項目ごとに個別かつ具体的に分析し、その推計手法の開示を試みている。さらに、第Ⅳ章においては「推計」と位置づけられてきた『国民医療費』は「推計」というよりも「統計」の名を冠すべきものであることを論じるとともに、国民医療費の概念の再検討・対象の見直しの必要性に言及している。

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