薬史学雑誌
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『インドアーユル・ヴェーダ薬局方』における薬用植物の固有名としてのアムリタ~その文献学的考察~
夏目 葉子
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2020 年 55 巻 2 号 p. 136-151

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抄録
目的:アムリタとは,サンスクリット語で「不死」を意味する語であるとともに,不特定のものに適用される形容辞でもあった.しかし,『インドアーユル・ヴェーダ薬局方』(以下略号 API)では,それを特定の複数の薬用植物の同義語として記載している.本論では,インド医学文献におけるアムリタの用例を分析し,アムリタが特定の薬用植物の同義語として規定されるに至った根拠を考察する. 方法:まず,API でアムリタという同義語をもつ薬用植物の薬効を,薬理学の視点から論じる.次に,古代インド三大医学書,それらから処方を引用している『バウアー写本』,および API の典拠のひとつとされる『バーヴァプラカーシャ』におけるアムリタの記述を原文解読することで,その意味を文献学的に分析する. 結果:古代インド三大医学書と『バウアー写本』におけるアムリタは,グドゥーチー,ハリータキー,アーマラカの別称として用いられていた.なかでも,『バーヴァプラカーシャ』の語彙集に記されたグドゥーチーの薬用植物としての起源は,『ラーマーヤナ』に説かれていた「猿たちの復活」と同様に「生命を取り戻す」ことを意味し,「不死」と関連付けた捉え方をしていた. 結論・考察:API におけるアムリタの記述には,古来のインド神話伝説の系譜が関連している.そのことが,API がアムリタを特定の薬用植物の同義語として規定されるに至った根拠のひとつであると考察した.
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© 2020 日本薬史学会
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