2018 年 39 巻 p. 30-36
背景・目的 古くから温熱療法は抗腫瘍効果や放射線による治療効果を亢進させる働きがあることが知られている。温熱に関してはタンパク質の変性を誘導するものの、何故、再合成や再構成が可能なタンパク質の一時的な構造的変化が細胞致死あるいは放射線増感を引き起こすのかは未解明な点が多い。本研究では、温熱に対して感受性が高く、細胞致死あるいは放射線増感に直結する原因タンパク質を分子生物学的・生化学的アプローチにより同定し、温熱療法の持つ抗腫瘍効果における真の標的を明らかにするとともに創薬に向けた土台を構築する。
方法 様々なヒト培養細胞を用いて温熱処理によるタンパク質の挙動を網羅的に解析し(プロテオーム解析)、温熱処理に感受性があるタンパク質を探索する。次に分子生物学的手法によりそのタンパク質の過剰発現・発現抑制による細胞の増殖・生存への影響を評価し、真の温熱標的因子の同定を目指す。
結果 プロテオーム解析により、温熱特異的に発現量が低下する因子としてSerine-Threonine Kinase 38 (STK38)を同定した。温熱によるSTK38の発現量低下はタンパク質分解酵素の阻害剤であるALLNなどによって抑制された。さらに遺伝子操作によるSTK38の発現抑制は癌細胞の増殖能を低下させることが判明した。
考察 温熱処理によるSTK38の発現低下が増殖能を抑制することから、STK38は温熱による抗腫瘍効果の責任因子の1つである可能性が示唆された。