競争的資金の申請資格となったこともあり,研究倫理講習は研究者にとって身近な存在となっている.また,生物医学研究を実施するにあたって有用な研究倫理教材も多数提供されている.一方で,研究不正の発覚は後を絶たない.人類の知を拡大したい,新たな治療法を開発したいというモチベーションをもつ研究者にとって不正行為には価値がないことを考えると,そうしたモチベーションを歪める要素が研究環境にあると考えられる.競争的な研究環境がもたらす研究評価の変質,ライフサイエンス研究に内在する問題点は研究不正を誘発する要因となることがある.社会学者のMertonにより提唱された科学者の行動規範(共有性,普遍性,無私性,懐疑主義)は,健全な研究活動に立ち返る上で有用な理念である.専門家として社会に貢献することが求められている研究者が,Merton的規範をもつことは,社会からの信頼を得る上で極めて重要である.