日本放射線技術学会雑誌
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臨床技術
股関節正面X線撮影における生殖腺防護シールドの画質への影響
伊藤 樹 川畑 朋桂小野寺 崇
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2024 年 80 巻 3 号 p. 296-303

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抄録

【目的】近年,欧米諸国ではX線撮影時における生殖腺防護シールド廃止に向けた動きが高まっている.生殖腺防護シールド廃止を推奨する背景として,遺伝的影響のリスク上昇に関する報告が少ないこと,卵巣に到達する線量は直接X線ではなく遮蔽できない内部散乱X線に起因すること,加えて生殖腺防護シールドがあることで自動露出機構に悪影響を及ぼす可能性や,重要な所見を覆い隠す可能性があることが挙げられる.また,生殖腺防護シールドは大きなX線高吸収体であり,照射野内にあることで画質に対して何らかの影響を与える可能性が考えられるが,生殖腺防護シールドが画質に及ぼす影響は明らかにされていない.また,防護廃止後は不要な被ばくを避けるためにも最適な照射野の設定がより一層重要になると考えられる.そこで,本研究では,異なる線質における成人股関節正面X線撮影において生殖腺防護シールドが画質に与える影響について調査し,加えて照射野を適正に絞った条件下における画質について明らかにした.【方法】被写体を人体ファントムとして股関節正面X線撮影を行い,大腿骨頭部における画質評価を行った.照射野はa)14×17 inchとb)股関節画像の読影に必要な基準線・画像情報を損なわない照射野(適正照射野:11.6×15 inch)の2種とした.撮影管電圧は70 kVとし銅フィルタ付加の条件も検討した.入射表面空気カーマは1.25 mGyとした.このときの入射表面線量は日本における診断参考レベル(2.5 mGy)より十分に小さく,間接変換方式フラットパネルディテクタを用いた撮影においては妥当だと判断した.画質評価項目は,散乱体を含んだ信号差対雑音比(signal difference to noise ratio: SdNR)を用いた.【結果】生殖腺防護シールドを配置するとSdNRは4.6%低下し,生殖腺防護シールドが画質を低下させる結果となった.また,照射野サイズを適正に絞ると,撮影線質によってSdNRは微増減したが,生殖腺防護シールドの有無におけるSdNRの変化量にくらべ,わずかであった.【結語】本研究の結果から,股関節X線撮影時において生殖腺防護シールドを廃止する場合,照射野を適正に設定することで画質を担保したまま,不要な被ばくを減らすことができることを確認した.

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