2010 年 71 巻 3 号 p. 813-816
症例は46歳,女性.偶然発見された肝嚢胞の精査中に膵頭部の嚢胞性病変を指摘された.腹部CTにて膵頭部に直径5cm大の嚢胞様病変を認め,内部に造影効果を示す三日月状の実質部が見られた.ERCP上膵管像は正常であったが,膵液中K-ras遺伝子の異常を認め,悪性の可能性もある嚢胞性膵腫瘍と診断,手術を施行した.術中所見にて腫瘍は表面平滑,軟で膵頭部表面に半球状に突出し周囲膵組織への浸潤を認めなかった.充実性の部分を術中病理迅速診断に提出したが悪性所見はなく腫瘍核出術で手術を終了した.腫瘍は単房性の嚢胞で内容は粘調な硝子様の液体で,嚢胞壁に黄色の充実性腫瘤を伴っていた.組織学的には実質部と嚢胞壁にS-100蛋白陽性の紡錘形の細胞を認め神経鞘腫と診断された.術後8年後の現在再発は認めていない.嚢胞性腫瘍像を呈した稀な膵神経鞘腫の1例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する.