抄録
父島は東京都・小笠原諸島に属し本州から約1,000kmの遠隔地にある.交通手段は約6日に1便,24時間を要する定期船のみで,当診療所は島内唯一の医療機関である.戦後一時米国領土であった歴史から,欧米系在来島民も多く居住する.治療方針の決定には医学的事情だけでなく,生活背景も考慮する必要がある.症例は61歳の女性.左乳癌の診断で前医大学病院にて左乳房全摘,センチネルリンパ節生検を施行された.Stage IIA,HER2(3+)であったため術後補助化学療法を開始したが,精神的・経済的問題のため治療継続が困難となった.最終的にFEC3コース,ドセタキセル+トラスツズマブ1コースのみを施行した時点で前医での加療を中断し,当診療所でトラスツズマブ投与を継続した.合計17コース施行し,術後15カ月時点で再発はない.患者背景を熟慮した上で離島診療所において抗体療法を施行することは,選択肢になり得ると考えられた.