本研究は,患者の障害の種類により発生しやすいインシデントに特徴があるかどうかを明らかにすることを目的とした.
2008年4月から2019年3月までに当院障害者歯科の歯科医師および歯科衛生士により報告されたインシデント報告書を収集し,障害別(肢体不自由,発達障害,知的能力障害,精神障害)に分析した.その結果,インシデント報告書の総数は120件であり,そのうち72件が患者に直接関わるインシデントであった.全体のなかで,最も多いインシデントは「口腔内への歯・器具の落下」(23件)であった.障害の種類別では,肢体不自由で最も多いインシデントは「口腔内への歯・器具の落下」(8件)であり,次いで「嚙み込みによる歯・器具の破損」(7件)であった.発達障害で最も多いインシデントは「パニック・自傷・もの壊し」(10件)であった.知的能力障害では「口腔内への歯・器具の落下」(9件)が最も多く,次いで「処置による粘膜損傷」(6件)であった.また,発達障害では治療中および治療後に医療事故が発生するのに対し,他の障害ではインシデントの80%以上が治療中に発生していた.
これらの結果は,障害に特有なインシデントの傾向があることを示しており,患者が有する障害の種類ごとに医療安全上の配慮事項を理解する必要があることが示唆された.